2014年11月30日日曜日

2014-11-30 バージニア大学ダーデン・スクール(経営大学院) ジーン・リエドカ博士、 『デザイン思考』の最先端を語る!


 
ジーン・リエドカ博士

バージニア大学ダーデン・スクール(経営大学院)教授

 
 

<プロフィール>

今回は、現在、バージニア大学ダーデン・スクール(経営大学院)の教授で、以前、同大学のMBA(経営修士)プログラムの副学長であったジーン・リエドカ博士を紹介します。実務経験豊富なリエドカ教授は学者になる前に、United TechnologiesChief Learning Office 最高人材・組織開発責任者)でした。専門分野はデザイン思考です。教授が説明するように、戦略分析に用いる道具や手法はたくさん存在するが、その一歩前の戦略を考えるプロセスについての原則・手法が十分に開発されていません。リエドカ博士はデザイン思考の行い方、しかもそれをイノベーションと会社の成長に結び付ける手法を講義と書籍を通じて、広めています。彼女の著作には、2009年に出版したThe Catalyst: How You Can Lead Extraordinary GrowthDesigning for Growth:  A design thinking tool kit for managersDesigning for Growthなどがあります。

 

1. 具体例を挙げて、デザイン思考の概要を説明してください。この分野における現行の理論や実践の背景には何がありますか。

 
(1)「デザイン思考」は問題解決の代替手段

私は、デザイン思考を単に問題解決アプローチの代替手法だと考えている。ビジネスの世界では、すでに思考ツールがたくさん存在し、かなり洗練された伝統的な、計量分析のツール・キット(思考道具)もある。私が所属するバージニア大学ダーデン校(経営大学院)のMBA学生のための訓練を例にしよう。当校で欠けていると思うのは、ビジネスに関するアイデアの創出を支援するツール・キットである。自分の専門分野である経営戦略で利用される思考の枠組みを考えると、すでにある思考ツールはアイデアの分析のための枠組みであり、アイデアを創出するものではない。これまでかなりの期間、いわゆる「イノベーション(技術革新)」のプロセスにおける『曖昧な前半分』」(“fuzzy front end” of innovation)について企業のマネージャーを支援することが急務であると私は感じていた。

私はもともと企業の有機的成長(社内の経営資源を活用した本業重視の成長)を研究していた。経営戦略の教授として、企業のマネージャーに戦略上の一番の苦労について訊くと、いつも「事業における有機的成長の機会を見極めることだ」という回答が返ってきた。私はそうした答えに苛立っていた。経営戦略分野にはマーケル・ポーターのファイブ・フォース分析やSWOT分析のような枠組みがたくさんある。でも、どれもマネージャーが創造的に有機的成長の機会を考えることを支援していない。私のこの苛立ちが部分的なきっかけとなって、市場の平均成長率を大幅に超えるスピードで、自社事業の成長(つまり有機的成長)に成功しているマネージャーに関する研究に取り掛かったのである。

彼らを観察しているなかで、彼らの行動はあるときは科学者に似ているし、あるときはデザイナーに似ていることに気付いた。実験的なやり方を採用し、プロトタイプを製造したり、小さな賭け(リスクテイク)をしたりしていた。自分が売ろうとしていた商品に焦点を当てる代わりに、顧客を詳しく理解し、何を達成しようとしているかに注意を払っていた。これらのマネージャーは「学ぶ姿勢」を示した。すぐに「正解」に到達することを期待せず、試行錯誤の繰り返しで正解が見つかるという期待を持っていた。マネージャーはときどき、間違うことを予想し、それにもとづいて、途中でより良い解決策を工夫できると期待していた。


(2)有能なマネージャーはデザイナーに似ている 

私の研究データを分析した際、大成功を収めた「企業に成長をもたらしたリーダー」がデザイナーのように自然に行動していた度合いに驚いた。そのとき、行動があまり自然に感じられないマネージャーに、これらの行動を教えられるかどうかの可能性を考え始めた。それがデザイン思考の私の関心の原点だった。もちろん、当時、ビジネス系雑誌でも、アップル社やIDEO(デザイン系コンンサルタント会社)のような企業に関する議論がかなりあった。しかし、アップルの際立った業績は、ビジネスメディアの主流だった人々に、それ以前は注目しなかった「デザイン」について議論するための刺激となった。

これらすべての要素がひとつになって、私は、IDEOFrogContinuumJumpのようなデザインコンサルタント企業の方法論に注意を払うようになった。特に、こうした企業が具体的に何をやっていたかを詳細に観察し、これらの組織のツールやプロセスを「言語化」し、デザインの訓練を受けたことのないマネージャーが利用できる手法を抽出しようと考えた。私たちが最終的に開発して、ダーデン校で教えている方法を通じて、「創造性豊かなアイデアの創出の前半の部分」と「厳格かつ分析的で、仮説に基づいた後半部分のプロトタイプの製造部分」を統合させるべく努力している。私たちの目標は、どんなマネージャーでも自社事業のイノベーションを刺激する方法を探すのに役立ち、同時に教えることができる教材を生み出すことにある。

こうした考え方は何十年も前から存在している。私たちが執筆したもの、さらには開発したモデルを検討すれば、いろいろな意味で、何も新しい発明がないことが分かる。私たちが行ったことは、既にあるものを「翻訳」しただけである。デザインを専門としない人にとって往々に把握しにくい概念を、マネージャーが理解できる言葉に書き直したのである。「ユーザー・フレンドリーネス」(使いやすさ)、つまり、企業のマネージャーが利用できる教材を作ることが、この研究における私たちの第一目的となった。

 

2. アップル、IDEO IBMMeYouHealth、とThe Good Kitchenがデザイン思考を採用している会社の例として指摘されています。その結果、こうした企業にとってデザイン思考がどのように業績に繋がっているのでしょうか。企業は、どうしたら、デザイン思考の便益やROI(投資収益率)を測定できますか。一般的に、デザイン思考を採用する際に、どのような費用が発生しますか。

(1)デザイン思考の効果測定

適切な測定値を設定するのは、解決しようとする問題によって異なってくる。デザインについての私の関心のきっかけとなった有機成長の分野では、測定方法はシンプルである。従来の成長と比較し、デザイン思考が成長率を引き上げたかどうか。しかし、同時に、デザイン思考はより測定しにくい多くの他の便益を生むと私は個人的に思っている。いずれにしても、デザイン思考に対して、一般的には、有機的成長、収入、収益性など、注目される測定可能ないくつかの成果指標群がある。

M社の場合は、営業担当者と顧客との間のコミュニケーションをもっと豊かにするためにデザイン思考を使っているので、営業担当者にその効果を確認することができる。顧客が営業担当者とより意味のあるコミュニケーションをしているかどうか確認するために、その成果を顧客にも訊ける。IBMでは展示会を刷新するために、デザイン思考が採用された。展示会の出口で、「Hot Leads」という手法を用いて、展示会の影響を受けて見込み客になりそうな出席者の数を調べることができる。これは測定可能な数字だ。The Good Kitchenではデザイン・チームの努力の結果、人々が追加的に求めた食事の回数が測定される。

この意味で、ひとつの段階では、解決しようとする問題に関連した具体的な測定値がたいてい存在する。この数年間にデザイン思考の分野を検討して学んだことのひとつは、収入の成長を刺激するための利用は、単に一つの使い方に過ぎないということである。実際、私たちが研究してきた事例の多くは、社内プロセスの再設計のような幅広い種類の作業に対する個人的な利用についてである。特に、政府と非営利団体の分野では、デザイン思考の適用はとても有望であると私は信じている。このようにデザイン思考を様々な方法で使えるために、デザイン思考の利用を通じて達成したい目標によって測定方法が異なるといえる。
 

(2)もちろん測定困難な効果もある

前述のとおり、測定しにくい結果も存在する。私たちは、ある解決法の内容を改善する機能に焦点を当てているにもかかわらず、デザイン思考を検討しきたなかで、チームが協力するプロセスも劇的に改善できると信じるようになった。デザイン思考の手法の多くは、共同で用いるものだからである。創造性の分野を検討すると、想像性豊かなものを作り出す主な材料の一つは多様な考え方の存在であることが分かっている。このため、創造的な結果を目指しているチームには多様な考え方を持つ人々が必要不可欠となる。しかし、考え方が多様な人間を同じチームに入れた途端に、合意の達成が困難になる。彼らは討論したり、喧嘩したりする。多数の学術研究は、多様なチームの便益の多くは、何かを達成するために、メンバー間でさまざまな意味や解釈を調和させるのに必要な時間と引き換えに失われてしまうことを示している。

デザイン思考の協力促進ツールは、チームの世界観を合わせること、問題の定義、そして最終的に良い解決法の基準を整理するのに役立つ。初期段階でチームをこれらの課題に合わせられれば、違う代替案の選択に関連したきりのない議論や遅延に伴う時間を大幅に削減できる

これらを踏まえ、いかにチーム学習や効果の結果を計測すればよいだろうかという質問にもどろう。もちろん、学術研究者は確かにそうしたものを測定していているが、ビジネスの世界ではその便益が見極めにくいときもある。でも、最終的には、これらの測定しにくく、視認しにくい便益こそが、デザイン思考が生み出すもっとも強力な結果になると私は思う。

 

3. あなたは、博士号を取得する前に、経理や金融の分野でかなりの経験を積みました。その経験に基づくと、左脳思考型で、数字を取り扱うことを仕事とする人は、デザイン思考の研修が終わってから、どのように変わりますか。ご自身のコンサルタントとしての経験や研修から、興味深い例を挙げて説明してください。

 
(1)左脳思考とデザイン思考

デザイン思考の研究に移る前に、企業の有機成長の研究を通じて最初に学んだ教訓は次の点だ。つまり、どんな種類の人物が創造的か否かについての私たちの固定概念が基本的に間違っているということである。有機成長の研究のサンプル(標本)には、創造性が豊かではないと考えられていたエンジニアや会計士が多く含まれていた。これは、私たちが直面しているビジネス上の問題の一部だと信じる。私たちは、(アップルの共同創業者である)ステーブ・ジョブスのような人物が創造性の唯一の源泉であるという神話を持っている。確かに因習を拒否した彼らは、創造性を猛烈に発揮している。彼らは自らの個性によって、私たちとは違った方法で物事を見る。しかし、この神話は正しくないことが分かっている。創造性を発揮する方法はたくさんあるのだ。

例えば、データに基づいても創造性は発揮できる。私がブレーンストーミングに参加させられ、安全ピンの新しい使用方法を10個考えろといわれたとしよう。何もデータを提供されなければ、私は多くの使用方法を考え出せないだろう。私はこの種の創造性に卓越していない。しかし、顧客について、洞察を探求できる詳細なデータを提供してくれれば、そうしたデータをデザイン上の基準に読み換えることができる。それらの基準に沿い、ブレーンストーミングをしろといわれれば、私はかなり創造的になれるだろう。


(2)会計士はデザイン思考に向いているか?

これが中心問題だと思う。「真空」の中で創造性を発揮してもらおうとしたら、数字的な作業に慣れているエンジニアや会計士はあまりうまくやれないだろう。しかし、データの使用に長けていて、うまくパターンを認識し、テーマを見極める私たち(エンジニアや会計士)はデータに基づいたプロセスに対処するのは得意である。学会でよく私たちがいう冗談は、研究者は個人的な問題に関する研究に引かれるというものである。もしかしたら、私自身がそれほど創造性豊かな人間ではないからこそ、創造的な作業に魅了され、デザイン思考やその研究に引かれるのだと思う。私自身が創造性のプロセスに長けていないからこそ、教育者として、あまり創造性豊かでないと自信を持てない人たちをどうように支援したらいいのか、という問題に関して強い共感をもっている。

私は、デザイン思考に苦労する会計士の一人かもしれない。一方で、会計分野で仕事を始めた多くの人々が想像性豊かなデザイン思考に卓越していることがわかった。私が好きな話のひとつが、所得税の税務コンサルタント業を営む会計事務所についてである。その企業の組織内には弁護士や税理士がいっぱいいる。この事務所では、プロトタイプに基づき、顧客とコミュニケーションをとるために、デザイン思考を応用して顧客対応のプロセスを再設計した。デザイン思考に関する私の最初の本のなかで、この話を紹介している。この会社は、デザイン思考のツールを使えば、弁護士や税理士で成り立っている組織でも素晴らしい成果を達成できることを証明している。

この組織が成功した部分的な理由は、会計士、弁護士、エンジニアが強い自制心をもっている事実に由来するかもしれない。彼らはプロセスに対してとても注意深く対応する。学習プロセスに要求されるひたむきな努力に耐え、技量の改善に固執する傾向が強い。これらの専門家に(デザイン思考の)プロセスを導入したら、彼らはそれに勤勉に取り組む。私たちがデザイン原理をエンジニアに教えると、ほとんどの者が月曜日に仕事に戻ったら、それを適用する。彼らはプロセスに積極的に取り組み、結果を計測し、さらに改善するように努力する。

創造性豊かだと思われている社員は、月曜日に仕事に戻るときに、以前と同じやり方をそのまま続けることもある。そうした社員は、意欲や自制心に欠けている。あるいは、「創造性を発揮するために、なぜデザイン思考のプロセスが必要なのか」と疑い、デザイン思考のプロセスに真剣に取り組む必要を感じない。逆説的ではあるが、創造性を発揮しそうにもない人物に、これらのデザイン思考のプロセスを教える場合が多くの成功につながるといえる。

 

4. 左脳と右脳をつなぐ脳梁に関して、男性より女性のほうが、20%ほど密度が高いという研究があります。この結果は、女性がデザイン思考により適しているという仮説につながります。デザイン思考を理解し、適応する能力は女性と男性で異なりますか。この分野を研究するあなたの実践的経験から、その点をどのように考えますか。

 
(1)男女の差異とデザイン思考

私たち学者は、ジェンダー(男女の差異)のような課題について一般化するのをためらう。しかし、明確なレベルで、女性が男性より自分の感情を快適に受け入れ表現することが知られている。また、平均的に、女性は男性より他人の感情を認識している。デザイン思考には、「共感」からスタートし、人々にインタビューし、自分の感情について話してもらうようなタイプの市場調査が含まれる。そうしたことから、女性は、一般的に、男性に比べ、デザイン思考のプロセスを快適に感じる。それは、まさに、私たちの社会で、(女性の)行動について教えられていることと関係している。長い間、多くの社会で、女性は「感情の管理者」となってきた。それが、私たち、つまり女性の役割である。子供を育てたり、他人の成長を助けたり、コーチングをしたり、他人のニーズに対応したりしている。女性たちは、他人のニーズを読み取る傾向が強い。デザイン思考では、女性がもつこれらの技能がとても役立つ。デザイン思考の概念に対して、ビジネスの現場では、女性は男性より身近な感覚をもち、それが彼女らの利点になっていると私は信じる。

逸話的に言えば、デザイン思考が仕事に不可欠である管理職には、女性が多いことが観察できる。私と共著者が、『The Catalyst』というタイトルの企業の有機的成長についての書籍を執筆したときに直面した困難のひとつは、インタビューできる「組織の成長を目指すプロジェクトを率いる女性のマネージャー」を見つけることだった。確かに探すのに苦労した。その本のために、女性の物語の代表例を探し続けた。

一方で、『Designing for Growth』というデザイン思考に関する私たちの最初の本を書き始めたとき、「数人の男性を見つけないと、この本は女性についての事例研究書になってしまう」と私たちは冗談を言い合った。その本で対象とした企業では、設計サービスやユーザー・エクスペリエンス(顧客体験)の分野には女性が多かった。伝統的に、デザイン思考を採用しているあらゆる分野の担当者は、不釣り合いなほど女性が多かった。企業との付き合いを通して、女性が男性より不利な立場である他の分野とは異なり、デザイン分野では女性が男性より有利な立場にあることを私は理解した。女性に伝統的に与えられてきた役割を踏まえれば、この状況は当然だといえる。

伝統的なビジネスの行い方(左脳型の仕事の仕方)は私たち女性が育ってきたときに行動するように教えられた方法(つまり、感情の管理者、右脳型の仕事の仕方)と矛盾している。そうしたなかで、デザイン思考の原則が女性の育てられ方に適合することは女性にとって随分励みになる。もちろん、デザイン思考が女性のための「ピンク色のゲットー」(女性特有の固定的な仕事、往々にして低賃金の業務)のためのものになることは望んでいない。そうなると、組織内で、デザイン思考が単に「極端に軟派な仕事」と思われ、低く評価されてしまうだろう。この意味で、デザイン思考が不可欠な事業分野が主として女性に率いられていることは、「痛し痒し」の状況にあるといえるかもしれない。

 

5. ピクサーとグーグルは、革新的な職場環境をもっていることで有名です。こういう職場環境とデザイン思考の普及の間には正の相関関係があると思いますか。また、ある種の職場環境がデザイン思考を刺激すると思いますか。


(1)物理的な環境とデザイン思考の関係

最近、私はこの話題についての記事を読んだ。現在、学者の注目を集め始めている面白い研究分野であると思う。教育の観点からいうと、物理的な環境によって大きな違いが生まれることが分かっている。ダーデン校でデザイン思考を教え始めたとき、当校は伝統的で事例研究中心のビジネス・スクールだった。すべての教室には、ハーバード・ビジネス・スクールにあるような階段状に並んだ固定された机の列があった。その配置は事例研究にもとづいた指導を行うには最適な環境である。しかし、デザイン思考はこういった環境では教えることはできない。

デザイン思考の授業は、人々がテーブルの周りに一緒に座り、チームとして作業することができるような広くて開放されたスペースを必要とする。視覚資料を作ったり、壁にアイデアを書いたメモを貼ったりすることができなければならい。伝統的な企業の会議室には、役に立たない大きなテーブルが部屋の中心にある。壁は絵画で飾られているため、ポスターや展示品を設置する余裕はない。これらの会議室は、デザイン思考に必要な環境の正反対の状態にある。ダーデン校でデザイン思考を教えるために、新しいスペースを建設しなくてはならないことを私たちは直接学んだのである。

 
(2)「ウォー・ルーム」が必要

企業にも同じ考え方が当てはまると思う。デザイン思考を行うために、高価な資源が必要なわけではない。ただ、テーブル、椅子、スペースの広い壁がある未使用の部屋さえあればよい。このような部屋の設置の費用はそれほど高くないが、ほとんどの組織にはこうした施設はない。最新の研究によると、キュービクル(小さく区切った作業用スペース)は必ずしも悪いわけではない。人々は自省のためにプライベートなスペースを必要とする。完全に開放的な環境ではかえって気が散ってしまう。他方、協力を促進するために、キュービクルの空間を補足する広い空間が必要となる。つまり、キュービクルが悪いのではなく、それだけでは不十分だということだ。

デザインは極めて共同的な作業のため、人々が協力できる開放的な空間が必要となる。IDEOJumpのようなデザインスタジオへ行けば、「ウォー・ルーム」(直訳: 戦争の部屋)と呼ばれる部屋があることに気づく。プロジェクトチームは、視覚資料を壁に張ったままにしておけるような自分たちの部屋を持っている。そうした部屋を使えば、他人が部屋を使えるように、資料を取り外し片付ける必要もない。その結果、部屋の壁がプロジェクトの展開や進捗状況のストーリーを物語ることになる。上司が進捗状況を知りたいと思うときは、彼/彼女を部屋に案内するだけで十分である。この質問が示唆するとおり、こうしたデザインのための空間を作ることには大きな潜在力が秘められていると考える。

 

TOEIC スーパー先生サークル



 

2014年10月31日金曜日

2014-10-31 - 「補完的生産者」(コンプリメンター)は、ポーター理論を「補完」する6番目の競争要因だ!


 


補完的生産者」(コンプリメンター)は、ポーター理論を「補完」する6番目の競争要因だ!
 
 
 
 
 
バリー・ネイルバフ博士は、ゲーム理論にもとづき、プラスサム型のバリューネット(価値相関図)における「補完的生産関係」ならびに「補完的生産者」(complementors)を提唱する。たとえば、医者と製薬会社、州際高速道路と自動車、映画とポップコーン、ホットドッグとマスタード、マイクロソフトとインテルなどを想像してみよう。これらの商品の組み合わせは、補完的な関係にあり、この補完的な関係により、新たな市場を創造している。
経営戦略論の泰斗マイケル・ポーターが提唱する「ファイブ・フォース・モデル」(5つの競争要因)は、産業競争の静的な分析フレームワークだとされる。このモデルは、「一方が得をすれば、もう一方がその分だけ損をし、全体としてはプラスマイナスがゼロとなる」ゼロサムの競争状態を前提にしている。
それに対し、ネイルバフのバリューネットは、補完的な生産関係により、全体の市場が拡大し、各社の市場もそれに応じて拡大するプラスサムを前提にする動的な戦略分析フレームワークである。
ネイルバフが、このインタビューで語るように、バリューネットは、ポーター理論と対立するものではない。ネイルバフは、補完的生産関係は、ポーター理論の6番目の競争要因として考えることができ、ポーター理論を「補完」するものであると主張する。(ただし、ネイルバフによれば、ポーター博士はこの補完関係を6番目の競争要因として認めていない)。
ネイルバフは、ゲーム理論や経営理論の研究だけでなく、実際のビジネスでも大成功を収めている。それが、低糖アイスティー「オネスト・ティー」社の創業だ。甘いもの大好きのアメリカ社会で、「甘くないアイスティー」を普及させる壮大なプロジェクトは、ひとつの起業ストーリーとしてもたいへん興味深い。
聞く者(読む者)の注意をけっしてそらさない、博学多才なネイルバフのイェールからのレクチャーを、このインタビューを通じて存分に楽しんでもらいたい。
2014522日 インタビュー実施)
 
 
<プロフィール>
 
バリー・ネイルバフ博士(Barry Nalebuff)。イェール大学経営大学院教授。英国オックスフォード大学(博士/修士)。米国マサチューセッツ工科大学(MIT)卒業。専門は、ゲーム理論と経営戦略論。ニューヨーク大学経営大学院のアダム・ブランデンバーガー教授との共著『コーペティション』で、ゲーム理論にもとづき、「バリューネット」(価値相関図)と「補完的生産者」(complementors)を提唱。コンサルタントも実施しており、顧客にはアメリカン・エキスプレス社、GE社、グーグル社、マッキンゼー社、NBAなど。イェール大学での教え子、セス・ゴールドマン氏を共同で低糖アイスティー「オネスト・ティー」社を創業し、大成功を収めた。現在、同社は、コカコーラ社に買収され同社の子会社になっている。オネスト・ティーの創業を紹介したマンガ『ミッション・イン・ア・ボトル』(Mission in a Bottle)も好評発売中。
 
 
 
1.  バリューネット(価値相関図)とは何か?

「バリューネット」(価値相関図)の概念を明確に示す企業または産業の最近の事例を紹介してください。
 
(1)補完的生産者とは?
バリューネッはゲームの様々なプレイヤーに対するより豊富な考え方である。これは伝統的な視点だが、資金が顧客から企業へ流れ込み、そこからサプライヤー(供給業者)へ流れる垂直な関係がある。競合企業間の水平的な関係があることも理解している。しかし、補完的な生産関係にある企業(complementors)とその関係には注目されていない。補完的生産者(conplementors)は、競合企業と対照的な役割を果たす。競合企業は自社商品の価値を減らすのと反対に、補完的生産者はその価値を高めるわけである。実際、その意味で、競合企業より、「代替商品の提供企業」と呼んだ方が適当かもしれない。
 
代替商品や補完商品は、(需要サイドだけでなく)供給サイドでもありうる。ハーバード大学とイェール大学は(需要サイドで)顧客(学生)を獲得するために競争している。同時に、供給サイドでも教員の採用のために競争している。ハーバード大学の教員になる学者は、イェール大学では教えない。一方で、例えば、ハーバード大学の教授がイェール大学の教授が使うケーススタディー(事例研究)を執筆したら、両大学の教員は補完的な関係になる。
 
(2)インドのタタ・モーターズの補完的生産関係
次にビジネスの世界に目を向けよう。最近、インドのタタ・モーターズが世界で始めて2,000ドル以下の価格の自動車、「タタ・ナノ」を導入した。こんなに安い価格で車を製造するのは、エンジニアリング(工学)における一種の奇跡である。中古車とバイクがタタ・ナノの代替商品になるだろう。しかし、タタ・モーターズは、タタ・ナノの生産を計画したときに、これらを補完商品として考慮しなかった。具体的にいえば、タタ・ナノをいちばん購入しそうな顧客は、バイクを下取りに出す可能性が高い。にもかかわらず、タタの販売業者は、下取りのバイクを受け取る設備もないし、能力もなかったのである。
 
さらに、タタ・モーターズは自動車ローンを考えなかった。これまでバイクを使っていた顧客が、車を初めて買うとき、一般的に自動車ローンの信用審査をクリアできない。ここでの問題は、顧客に信用審査に抵触する履歴があることではなく、信用情報そもそもないことである。当初、タタ・モーターズは、自動車ローンを提供する準備をしなかったので、見込み客の多くがタタ・ナノを購入できなかった。最終的に、タタ・モーターズは上記の2つの問題を是正した。同社は、バイクの下取りを可能にし、銀行借り入れを利用しない層に自動車ローンを提供することになった。しかし、補完商品を考えなかった結果、同社はタタ・ナノを売り出したときに、不利な立場に置かれた。
 
(3)トイザらすは「デスティネーション・ショッピング」
日本の状況は違うと思うが、アメリカでは、ウォルマートがトイザらスを抜いて、最大の玩具小売業者になった。(アメリカにおいては) トイザらスは、「デスティネーション・ショッピング」 (「目的地買い物」の意味。特定の商品、この場合、玩具購入のために行く専門店である)である。一方のウォルマートは、顧客が常に買い物に出かける場所である。したがって、ウォルマートのほうが、より良い補完商品をもっている。誕生日のプレゼントを買うためにだけトイザらスに行くよりも、ウォルマートに他の物を買いに行ったときに、バースデー・プレゼントを簡単に購入できる。
 
私が知っている限り、日本ではトイザらスはデスティネーション・ショッピングではない。むしろ、トイザらスの店舗はショッピングセンターの中にある。あるいは、その他の小売店と隣接している。その結果、トイザらスは、アメリカに比べ、日本でより成功している。同様に、アメリカでは、人が既にいるニューヨークのタイムズスクエアのような場所に店舗を開設する必要がある。あるいは、子供用の理髪や6番通路で子供用の誕生日パーティーを開く選択肢のような補完的な商品やサービスを提供しなければならない。つまり、米国において、トイザらスは顧客に来店してもらう他の理由を創り出さなければならない。
 
ガソリンスタンドも補完商品に関する類似の問題に悩んでいる。世界一のガソリンを販売しても、コンビニがないと、コンビニを併設している競合ガソリンスタンドに負けてしまう。あなたは、ガソリンの事業を行っていると思っているが、実は、コンビニ事業にも関わらなければならないのだ。
 
(4)補完的生産関係は6番目の競争要因
マイケル・ポーターは、(自分の「ファイブ・フォース・モデル」(5つの競争要因モデル)において)、私が提唱する補完的生産関係を6つ目のフォース(要因)として認めることに消極的である。彼は、補完商品とは単に、価値を高めるものと主張し続ける。言い換えれば、そのようなものとして補完財が存在すれば、より好ましいと考えるが、特定の要因とはみなさないのである。彼の見解に対して、私は、(競争要因の)定義からして、補完的生産関係(あるいは補完材)は、フォース(要因)とみなされなければならないと反論している: 文字どおりに解釈すると、彼が、(5つの競争要因のなかで)代替商品について議論するのであれば、その反対概念である補完商品も当然考慮しなければならない。さらに、(5つの競争要因モデルで)産業を分析するのであれば、産業の補完的生産構造に着目する必要がある。たとえば、(補完的生産関係にあるコンピューターのソフトウェアと半導体メーカーを考えると)、マイクロソフトは、インテルが独占であるかどうか懸念している。もし独占であれば、インテルは、マイクロソフトと同様に業界の全利益を獲得する能力をもつことにある。だからこそ、マイクロソフトは、(それを防ぐために)インテルのライバルの半導体メーカー、AMDを支えている。同様に、インテルはマイクロソフトの独占的な地位を懸念しているので、(マイクロソフトのライバルである)リナックスを支える。つまり、補完的な生産関係にある産業構造が両社の「利益を獲得する能力」に影響を与えているという事実が、補完的生産関係(あるいは補完商品)が産業の収益構造の6番目のフォース(要因)である根拠を示している。

 
 
2.ブルー・オーシャン戦略との比較  — 女性専用ジム「カーブス」
バリューネットは、ブルー・オーシャン戦略に対して、どのように位置づけられますか。共通点は何でしょうか。違いは?両方のモデルは両立可能ですか
 
ブルー・オーシャン戦略に対して、二つの考え方がある。ひとつが、競合企業が見逃した商品市場のニッチを見極め、自分だけの持てる市場を開拓することである。女性専用のカーブスフィットネスの例を参照しよう。企業が、従来、主に男性または男女混合の顧客ベースのためのジムに焦点を絞ってきたなかで、同社が女性専用のジムを開拓したといえるだろう。

もうひとつの考え方は、ジムにいる女性は他の女性が一緒にいることを「補完的」だと感じることである。対照的に、ジムに男性がいる場合、その男性が競争相手と見なされる。女性は、トレーニングマシンが男性の使用する重さのレベルで設定され、そこに彼らの汗がたくさんついている環境を好まない。さらに、男性の好む音楽が流れていて、男性の雰囲気が強いジムでは、女性は運動する関心が低くなる。例は違うが、私が、コカコーラを飲んだ直後にペプシを飲む気にならない状況に類似している。つまり、ジムに男性がいるからこそ、女性にとって、ジムという商品自体の魅力がより低下するのである。対照的に、ジムに他の女性がいることは、女性にとってのジムの魅力を高める。これは、「他の顧客」(の存在)が、場合により、補完商品にも代用商品にもなる一例だ。ブルー・オーシャン戦略の本質は、単に、競合相手がいない市場を考えることだけでなく、補完商品の使用により、いかに新たな価値を生み出すかを考察することでもある。
 
 
3.「一時的な競争優位」との関係は?
バリューネットは、「一時的」な性質がありそうです。この意味で、リタ・マックグラス(コロンビア大学)が提唱する「一時的な競争優位」の概念に類似しています。一方、あなたは、競争優位は持続可能でなければならい、あるいは最低限維持されなくてはならないという意見を持っているようです。バリューネットは、持続可能ですか、一時的ですか。バリューネットが「一時的」になり得る条件や持続可能になり得る条件は存在しますか。
 
「バリューネットが持続可能である、または一時的である」という表現はこの専門用語の正しい使い方だとは思わない。バリューネットとは、ある種の「地図」なのである。むしろ、競争優位が持続可能だと主張できる。ポーターやマックグラスなどが競合企業の側面から持続可能な競争優位について既に充実した解説をしているので、私から付け加えたい説明はそれほどない。しかし、補完的生産関係(complementors)にもとづく競争優位の持続性について言いたいことがある。カーブスのあとに、他の企業が「ペッパー」(こしょう)または「エグプラント」(なす)のような他のブランドで市場に参入したら、カーブスの競争優位は低減するかもしれない。他方では、他社が補完商品を導入したときに、自社商品も恩恵が受けられる。その結果、自社の補完的生産関係にもとづく競争優位が残る。そうした競争優位は消えることはない。
 
タタ・モーターズの例に戻ろう。他の企業が銀行借り入れを利用しない層に自動車ローンを提供し始めたら、この補完的サービスはタタ・モーターズを支援しタタ・ナノの売り上げを増やす効果がある。実際、顧客がこのような補完的サービスをより容易に、かつ安く取得できるようにしてあげるのは重要な目的となる。私は、自分で名付けた「プロプライエタリ・コンプリメント」(proprietary complements、自社のための補完商品)を、産業共有の補完商品と区別している。仮に、タタ・モーターズにとって、タタ・ナノの代替商品を販売する競合企業が存在しなければ、誰が自動車ローンを提供するかは大した問題ではない。その場合、銀行が自動車ローンを提供しても何ら問題ない。他方で、競合他社がタタ・ナノの代替商品を販売する場合を考えよう。その場合、自社(タタ・モーターズ)の自動車ローンがプロプライエタリ・コンプリメントであるとき、つまり、その自動車ローンをタタ・ナノの購入者にしか提供しない場合、競合企業が代替商品の自動車のプロプライエタリ・コンプリメントになる自動車ローンを提供するなら、タタ・ナノと自動車ローンの補完関係の価値は失われる。だからこそ、自社(タタ・モーターズ)は、競合企業より良い補完商品(この場合自動車ローン)を提供したいと考える。そうなれば、タタ・モーターズは、「一時的な補完関係にもとづく競争優位」を享受できる。要するに、自社商品の補完商品の市場が発展するにつれ、補完商品の誕生ならびに存在は、自社に損害を与えるのではなく、恩恵を与えるようになる。

 
 4.産業かアリーナか? — グーグルの無人自動車
変化が激しい現在のインターネット時代では「アリーナ」(直訳: 競技場;  意訳:  会社が競争する場)という概念が「産業」より、戦略分析におけるもっと適切だと思いますか。あなたのバリューネットの理論から考えると、どちらの用語がより適切でしょうか。
 
テスラモーターズ (米国の電気自動車メーカー)の最新の動向をみると、電気自動車産業の最大の障害は電池技術なので、同社は独自に電池工場を建設している。この電池技術は改善が必要だ。この電池技術は、一社単独で生産するにはコストが高すぎる補完商品でもある。その結果、電池技術の開発について多くの提携が行われている。より進んだ電池技術は特定の1社だけではなく産業全体に好影響を与えることになる。くわえて、そうした電池技術に関する提携は、この産業に欠けている「中核をなす補完的生産関係」でもある。
 
グーグルの無人自動車の開発手法は、極めて詳細な地図を開発するプロセスのように映る。それは自分のラップトップのパソコンで見る簡単な地図ではない。歩道の縁石の高さから道路のくぼみまで、詳細な情報を含む地図である。グーグルのデータベースはプロプライエタリ・コンプリメント(自社のための補完商品)の一例である。つまり、無人自動車を利用したいなら、グーグルが持っている道路に関する詳細のデータが(補完的に)必要となる。
 
グーグルは、最近、ロボットの研究開発の世界最先端企業の一社であるボストン・ダイナミクス社を買収したと思う。同社は、オフロード(一般道路外)の地域を走行できる素晴らしい四足歩行のロボットを開発した。
 
なぜ、グーグルがそういう会社を買収するのだろうか。なぜなら、そのロボット技術があれば、オフロード地域の地図の作成が可能になるからだ。例えば、グーグルは、いつか、(そうしたロボット技術を活用し)ショッピング・モールのようなビルの内部に関するデータを収集したいと思うだろう。同社はデータの収集と整理に長けている。無人自動車がデータに依存して走行するだけでなく、いったん完全に機能するようになったら、(走行しながら)データを収集することも可能になる。グーグルの無人自動車は、グーグルのストリートビューのように、道路を走行しながら、様々な写真を撮影できるようになるだろう。
 
グーグル・カー(つまり、無人自動車)の発明は、(従来)補完的関係にあるドライバーを取り除いてしまった。でも、その結果、現在はない自動車保険サービスが必要となるが、それは、無人自動車にとって重要な別の補完商品となる。我々は、いかに無人自動車に対して保険を提供したらよいか、現在分かっていない。新たな道路交通規制も無人自動車の導入に合わせて進化しなくてはならない。それも、無人自動車に対するもう一つ補完商品/サービスであるが、現時点では明確に定まっていない。仮に無人自動車を製造しても自動車保険という補完商品を付け加えるまで、無人自動車は利用できない。いったん、保険産業がこの補完商品を創りだしたら、無人自動車が普及していく。そうなれば、無人自動車は、やがて消え去る世界で最も「一時的な商品」ではなくなる。

一方、競合企業が無人自動車を製造できるかどうかは、その会社がどのように計画するかに左右される。その競合企業がグーグルのデータベースを利用する計画なら、グーグルにライセンス料を支払わなければならない。この場合は、グーグルの競争優位が維持される。対照的に、競合企業が、無人自動車が他の自動車と情報をやり取りできる代替の技術を開発したら、その競合企業はグーグルの地図データベース(補完商品)に依存していない方法で、グーグルと競争できるかもしれない。
 

5.日本企業への処方箋
かつて賞賛されたソニー、パナソニック、ニンテンドーなどの日本企業は現在、世界市場で苦戦しています。バリューネットの視点でみた場合、これらの企業の競争における苦戦の原因は何でしょうか。これらの会社が、どのようにあなたの理論の原則を応用したら、成功する戦略が策定できますか。


1)日本企業の過剰なアップグレード?
日本企業が直面するもっとも大きな課題の一つは、そうした企業の商品が良すぎるようになったという事実にある。まず、白黒テレビからカラーテレビに推移し、カラーテレビから高品位テレビや60インチのスクリーンにまで移行した。それらのすべては、顧客がお金を支払ってもいいと思う顕著な技術上の改善だった。しかし、私は、0マイルから時速60マイルへ3秒で加速してしまう自動車を買おうとは思わない。私にはそういう技術は必要ないからだ。同様に、テレビの最新版を買いたくない人もいる。私は現在持っているテレビから3Dや4Kの最新技術にアップグレードする必要を感じない。もっと大きいな画面も必要でない。スクリーンがさらに大きくなったら、私の家の壁には、そのような大画面を取り付ける空間はない。


同じ考え方がパソコンにも当てはまる。私は机の上に、スーパーコンピューターは必要ない。ほとんどの場合、コンピューターのほうが私の思考や作業を待ってくれる(つまり、現行の処理速度で十分である)。現行のラップトップの最も重要な特徴は重量と電池寿命だ。処理速度や画面サイズではない。こうしたことを理解したため、電池開発が活発になったのだ。私は現在、研究室に1台所有し、家にも1台あり、全部で、異なったタイプのラップトップを3台持っている。その中には、3、4年前のものもあるがまだ正常に稼働している。少しサイズが大きいので、いつも持ち歩きたくないが、よく考えると、文書処理を行ったり、プレゼン用のパワー・ポイントスライドを作成したり、エクセルを利用したりしている。これらの作業なら、私の現行のラップトップで十分である。ビデオ編集をする場合は、処理速度が課題になる。とりあえず、私としては、主にラップトップの携帯

性と電池の寿命が気になる。
日本企業にとって、このような技術的な課題が根本的な問題であると私が思っている。私たちは、顧客がもはや「sustaining innovation」 (持続的な革新)を重視しなくなった地点にまで辿り着いている。(ハーバード大学教授の)クレイトン・クリステンセンが言うように、日本企業は顧客の望みを超える商品を製造し続けている。顧客は、そうした望みを超える新しい特徴のために、お金を支払う意志はない。その結果、日本企業の持続可能な改善はもはや、その会社にとって価値を創り出していない。このジレンマを解決するために、日本企業は、根本的に新しい「破壊的革新」を創造しなくてはならないが、それは大きな挑戦である。もし伝統に固執した企業なら、このチャレンジは大きな苦難となる。
アップルのiPodの登場を振り返ってみよう。この商品のヒットの鍵は、違法ダウンロードされた音楽の補完商品になっていたという事実だったと私は考える。当時、ナップスターのような音楽共有サイトは、人々が基本的に無料で、違法ダウンロードされた音楽の巨大図書館を築くことを可能にした。しかし、それらのすべての楽曲を持ち歩き、整理し、または再生する良い方法は存在しなかった。しかも、すべての音楽がデジタルだったので、人々はウォークマンを使わなければならなかった。

(2)今後も困難が予想される日本企業
アップルは、人々がこうした音楽を十分に楽しむ補完商品を導入するチャンスを発見した。今はアップルのiTunesストアが音楽の購入を容易にしているが、当時、音楽の違法ダウンロードのほうが購入するよりも簡単だったわけである。今日、消費者はもはや音楽を買っていない。代わりに、スポティファイ(Spotify)、 パンドラ(Pandora)、 ビーツ(Beats)のような無料音楽サービスに加入している。消費者はもはや音楽を所有しようと思っていない。なぜなら、いつでも好きな曲を再生できるからだ。消費者は大容量のデジタル保存装置を必要としていない。唯一必要なのは、インターネットへの接続だけである。


アップルの商品、iPhoneやiPadからカメラに話題を移すと、今日、電話は基本的にカメラの代替商品になっている。アルファ(α)のカメラの商品ラインが素晴らしいソニーのように、世界一のレンズを製造しても、現在、人々が持ち歩いているスマートフォンが消費者個人にとって最高のカメラであり、それにはかなわない。あなたの携帯電話内のカメラの機能は、ソニーの高級カメラにはかなわないが、(洋服の)ポケットで携帯できるという点で勝者になる。あっと言う間に、携帯電話のカメラが画像安定やズーム機能をもつようになっている。これらの技術が進化するにつれ、ソニーがいま直面する窮地は悪化していくだけだ。全体的に言えば、ソニー、パナソニックなど、かつて卓越していると礼賛された日本企業で働く友人たちに対して、何も朗報は持っていない。

6.「オネスト・ティー」とアンデルセンの童話「えんどう豆の上に寝たお姫さま」
あなたは、ある講演で、(あなたが関与した)低糖アイスティーの「オネスト・ティー」(Honest Tea)について、「えんどう豆の上に寝たお姫さま」(アンデルセン童話)を紹介しました。そのとき、その童話の新たな解釈を紹介し、起業を希望する人々が、いわゆる「えんどう豆」に注意を払い、顧客の要望を完全に満たさない商品または顧客を苛立足せる状態を、機会の源泉として捕らえる提案をしました。最近、アメリカ市場または世界市場では、どのような「えんどう豆」があなたの関心を引きましたか。その理由は何ですか?


この童話では、王妃が8枚のマットレスの上に寝ている。一番下のマットレスの下に一粒のえんどう豆がある。王妃は、そのえんどう豆が気になって、眠れない。この童話の一つの解釈は、これによって彼女が真の王妃だということが分かることである。王妃だけが、こんなに些細な苛立ちを気にするからだ。もう一つの解釈がある。それ「もういいよ、王妃。この小さなえんどう豆のせいで、苛立ってはいけない。」。多くの両親は自分の子供たちに対し、この態度を示す。でも、私の考え方では、我々が我慢してきた「えんどう豆」の苛立ちを追及すれば、最終的には素晴らしいビジネスチャンスに行き着くかもしれない。「オネスト・ティー」の場合は、私が既存の飲料選択に対して不満だと思ったのが「えんどう豆」だった。従来の飲料は、水のように、つまらない味のもの、あるいはソーダのような液体の飴に似たもの、あるいは、危険なダイエット飲料だった。面白いことに、日本にはそういう状況は当てはまらない。日本には「ウィーク・ティー」(無糖茶や薄い味の紅茶/緑茶)、すなわち無糖または低糖のお茶の缶飲料がある。オネスト・ティーの登場の前には、アメリカでは類似商品は存在しなかった。

現在、酔いたくない人にとってのアルコール飲料は存在しない。このため、私は、最近、とても低いアルコール度の飲料を生産する会社を立ち上げた。商品名は、「KomBrewCha」(コンブルーチャ)で、発酵茶「Kombucha」(コンブチャ)からとった。会社の標語は、「Get tickled, not pickled」(酔っぱらわず、ほろ酔い気分になろう)である。ほろ酔い気分になりたいが、飲んだ後に仕事に戻ったり、運動したいときに楽しめる商品である。コンブルーチャなら極端に走らず、社交を楽しめる。


How entrepreneurs can change society - the story of Honest Tea:
Seth Goldman at TEDxMidAtlantic 
 
 

 
 
 
このブログは、ジョーが執筆し、皆様にお届け致します。ジョーことジョセフ・ガブリエラ は、2000年に来日したアメリカ人。格闘技ファンなら誰でも知てる、K-1ファイターのアンディー・フグ氏にそっくり!1989年米国ワートン・スクールを卒業。その後ペパーダイン大学を皮切りに、イリノイ大学、南フリダ大学を卒業。MBAを含め2つの修士号と博士号を取得しました。日米合弁IT関連企業、スイス系証券会社、米系銀行、そして日系外食企業など幅広い業界の勤務を通して様々なビジネス経験を積みました。趣味は、水泳、読書(村上春樹氏の大ファン!)、ピアノ、そして様々な国の言葉を勉強する事です。ちなみに、2年前から新たに中国語勉強に励んでいます!この記事についてのご質問、感想、また意見を歓迎します。また、共同研究者である杉本有造氏とともにコンサルティング業務も行っていますので、お気軽にご相談ください。



 
ジョセフ・ガブリエラ
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杉本 有造
IES全米大学連盟・東京センター
(The Institute for the International Education of Students, Tokyo)講師

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