2014年12月25日木曜日

2014 - 12 -25 ハーバード大学ビジネススクール アマビール教授


 

 
 
独占インタビュー 

ハーバード大学ビジネススクール アマビール教授
「インナー・ワークライフが成功の元!」

 
レサ・アマビール博士

ハーバード大学ビジネススクール(エドセル・ブライアント・フォード記念講座)教授

及び同スクールの研究ディレクター

スタンフォード大学博士(心理学)。彼女の最近の研究の対象は、日常の仕事における心理学的側面の探求である。具体的には、「インナー・ワークライフ」(inner work life)、つまり社員の仕事に対する気持ち・主観的態度が、創造性・生産性・コミットメントにどのような影響を与えるかを研究している。世界経済フォーラム(ダボス)やTED Talkでも講演。コンサルタントとして、IDEOP&GMotorolaなどにもアドバイスしている。



1. あなたの「Componential Theory of Creativity 」(直訳: 創造性の構成要素理論)は高い評価を受けた。それぞれの構成要素の具体例をあげて、その理論の概要を説明してほしい。企業の職場(現場)で、マネージャーがどのようにその理論を適用すれば、従業員の創造性を伸ばすことができるだろうか。

私の提唱する「componential theory of creativity 」(創造性の構成要素)では、個人が創造性的になるためには、3つの内的な構成要素と、もう1つの外的な要素が必要であると考える。では、内的な要素から説明しよう。第1の構成要素は、個人が創造性を駆使しようとする「分野についての専門知識」である。たとえば、ビジネスのシーンで、マーケティングの問題を解決しなくてはならない個人を考えよう。おそらく、その個人は新製品の発売計画を作成しなくてはならない。その分野におけるその人の専門知識とは、マーケティング分野について知っていることのすべて、その分野でできることのすべてを意味する。その専門知識には、その人のビジネスについての正式な教育、特に、マーケティングに関して受けてきた教育が含まれる。また、過去における類似問題に関する経験、具体的には、それに実際に取り組んだ経験、新製品発売に関する他者との非公式な打ち合せ、新製品のマーケティングに関して学習することができる環境におけるあらゆる事項に配慮することも含まれる。おそらくこのような分野に関する専門性には、先天的な要素もあるかもしれない。つまり、個人によっては、このような問題について考えることが生まれつき得意な者もいる。しかし、かなりの程度まで、このような専門性は、正式と非公式な教育や経験で左右される。分野に対する専門性が創造性の第1の構成要素となる。

第2の構成要素は、創造的に考える能力(創造的思考能力)であり、個人が関与し、解決策を見出そうとしている多様な分野で一般的に観察できる能力だ。この能力を、ほとんどの人がいわゆる「創造性」と考えている。創造的思考能力には、思考方法、問題から新しい側面を捉える方法、アイデアの間の新しい関係を見出し、また新規のアイデアを発想する観察方法が含まれる。例えば、個人のなかには、問題を逆さまにして、他人が考えもしない視点から問題を観察できる者もいる。これらの人々は、問題解決にあたって妥当な範囲でリスクをとるのが特に得意である。なぜなら、彼らは物事を、他の誰も(もしくは少数の者しか)見ない視点から観察できるからである。これらの創造的な人々は、困難に耐え、掘り下げて、新しい選択肢を探り、多種多様な発想をブレーンストームし、それから最高のアイデアに絞り込む能力を持っている。これらの性格特性や技能は、部分的に先天的なものであるが、訓練でも後天的に獲得できる。かなりの程度で訓練によって習得することが可能である。これこそが、創造的な問題解決(CPSCreative Problem Solving)、シネクティクス(多様な分野の人が集まって自由に討論することによって問題の発見や解決を図る方法。創造工学)、トゥリーズ(TRIZ、発明的問題解決理論) など数多くの他の研修が目指している所である。より詳しく言えば、こうしたプログラムは、広範囲の創造的思考力を養成する目的をもつ。
 
3の構成要素は、私の研究が最も焦点を絞っている要素である。それは、内因性動機付けである。つまり、それは、何か面白い、楽しい、個人的に挑戦できる、満足できるから、何かをやるという動機付けである。内因性動機付けの反対の概念が外的動機付けである。例としては、金銭や報酬、昇進、認知、締め切り、競争で勝ちたい意欲、好評価を得たいという願望がある。これらのすべては、外的な動機付けであり、仕事自体の特性とは区別されるものだ。私たちはみな、内因性動機付けと外発的動機付けの両方に向いている。そして、私たちの仕事にも両方の動機付けが存在する。しかし、ある人にとっては、内因性動機付けがより顕著であり、他の人にとっては、外発的動機付けの方が顕著になる。もちろん、こうした傾向は、部分的に人間の先天的な性格に依存しているが、内因性動機付けは、かなりの程度で、人々が働いている身近な社会環境によって左右される。この点が極めて重要である。
 
そして、この社会環境の議論が第4の構成要素を導く。それが、職場環境の要素である。これは個人の外部にある外的な構成要素である。この要素に関する重要な問いかけは次のようなものである。「職場環境が社員の仕事に取り組む内因性動機付けをサポートするか。あるいは、そうした環境には、内因性動機付けから注意をそらすような、あまりに沢山の外発的動機付けの要素と制約があるので、仕事における内因性動機付けにもとづくやる気が低下するか」。企業内のアンケート調査と観察調査に加え、数十年におよぶ実験研究を通じて、私たちが名づけた「創造性の内因性動機付けの原則」を発見した。人々が最も創造性を発揮するのは、外発的動機付けが原因ではなく、むしろ、内因性動機付けが主な動機付け(つまり、その楽しさ、興味、個人的な挑戦や仕事への満足感)として機能する場合である。
 
マーケティングの例に戻ると、仕事の場面では、社員にはもちろん、マーケティング分野の技能が必要である。また、新たな視点から問題を見て、問題が困難になってしまうときに耐える能力という創造性の技能も要求される。加えて、取り組んでいる問題に対して、内因性動機付けを持つ必要がある。その問題には自分の関心を引く何かがあると感じなくてはならない。おおむね、この内因性動機付けは職場環境に左右される。例えば、周りのチームで行われること、彼らに対する上司の発言、組織の文化、社内で何が行われるかである。私の研究の多くは内因性動機付けを支えるために、マネージャーは何ができるかを検討した。(加えて、内因性動機付けを弱体化させるマネージャーがよくすることも研究した。)より最近の研究が内因性動機付けの範囲を超え、仕事に対する社員の感情や認識の検討に発展してきた。

 

2. あなたの著書『The Progress Principle』(直訳: 進歩原則)のなかで「inner work life」(意訳:心の中に感じる仕事に関する気持ち)という概念を紹介されています。具体例を挙げて、この抽象的な概念を説明してください。なぜ、これが社員の業績を左右する要素になるのですか。

Inner work life 」(意訳: 仕事に対する気分)とは、社員が仕事中の出来事に反応し、それを理解しようとするにしたがって体験する感情、知覚や動機付けの組み合わせである。第1の感情は、単に、起こっていることに対する人間の反応である。これらの感情は否定的にも肯定的にもなりうるし、穏やかなものまたは激しいものかもしれない。仕事中、何かが起こったら、嬉しく、または誇らしく思うかもしれないし、あるいは怒る、イライラする、怖がるまたは悲しく感じるかもしれない。

知覚が2番目の構成要素である。知覚とは、今起こっていることとその意味に対する社員の考え、印象、や判断から成り立っている。この知覚に含まれるのは、組織、自分の上司、上級管理職に対する自分の考え、判断、や印象である。また、同僚についての認識や自分がやっている仕事、そして、自分自身に関する認識も含まれる。

第3の動機付けは、今行っている作業に対するやる気のことだ。私たちは既に動機付けと創造性の構成要素理論の中のその位置づけを議論した。動機付けは仕事に対する気分の不可欠な部分である。内因性動機付けと外因性動機付けが同時に作用し、両者が補強し合うことが可能だ。しかし、私が述べたように、外因性動機付けがあまりにも顕著な場合、実際には、内因性動機付けを弱体化する。

仕事に対する気分とは、基本的に、日々の仕事に対する主観的で、心理的な体験である。仕事に対する気分という概念を理解するために、私たちは、10年間に及んだ主要な研究を行った。具体的には、社員たちが、組織内で創造的な基幹プロジェクトに取り組んでいた際、この気分が日々どのように移り変わっていたかを検討した。私たちは間近で、詳細なレベルで、社会的な職場環境の要素が、1日ごとに社員の内因性動機付けと創造性にどのように影響を与えるかを調査したかった。しかも、内因性動機付けと創造性を超える、より広い範囲で、検討したいと考えた。仕事に対する気分のあらゆる側面を検討したいと思い、感情と知覚・認識も研究の視野に入れた。また、創造性の範囲も越えて研究したかったので、仕事の成果の他のいくつかの局面も調査対象に含めた。この研究のために、社内で、重要で革新的なプロジェクトに取り組んでいた従業員を選択した。そうしたプロジェクトの多くは商品開発であった。顧客のために、複雑な問題を解決するプロジェクトもあった。しかし、すべてのプロジェクトは、成功するために新規性と実現可能性が要求された。実は、それが、創造性が意味することなのである。つまり、創造性とは、新規で、役立つ何かを、あるいは実現可能なものを作り出すことなのである。

この研究では、3つの異なる産業にわたる7つの企業に関して26個のプロジェクトに取り組んでいた238人の従業員が対象になった。彼らは、自分が関与していたプロジェクトの終了まで、毎日日記を書き続けた。その日記の内容は、電子情報の形をとり秘密は保持され、ハーバード大学のコンピューターに直接送信された。日記は、2つの部分で構成されていた。第1部は、参加者のその日の仕事に対する気分を表す動機付け、感情や知覚について尺度で評価を求める数字的な問いから成り立っていた。第2部が記述式のレポートだった。毎日、参加者がその日の出来事のなかで、印象に残る一つを説明するように求めた。それは、自分の仕事やプロジェクトに関係する限り、何でもよかった。参加者はプロジェクト期間中ほぼ毎日、つまり、週5回レポーを作成し、それは、平均で、一人、4ヶ月から4.5ヶ月の期間が続いた。長期間のプロジェクトの場合は、9ヶ月も日記を記録し続けた参加者もいた。最終的に、約12,000日分の日記の内容を収集できた。これらにくわえて、私たちは、参加者の上司と親しい同僚から参加者の業績に関するデータを、調査期間中、いくつかの時点で収集した。

私たちが、社員個人の仕事に対する気分を仕事の業績評価と照らし合せて分析したとき、最初の発見があった。それを、私たちは、仕事に対する気分の効果 Inner Work Life Effect)と名づけた。社員の仕事に対する気分がもっとも肯定的な状態である日、週、月では、最も高い水準の成果を出す可能性が高かった。「Inner Work Life」を構成する3つ要素が、仕事の成果の4つの側面に有意に関与していることが明らかになった。第1が、従業員が職場環境に関する感情つまり、組織、同僚や上司に対する気分が一番肯定的だった時である。第2が、従業員の感情の状態が最も肯定的で、陽気なときである、そして、第3が、仕事に対する内因性動機付けが一番高いときである。こうしたケースでは、従業員が創造性を発揮する確率が最も高くなる。同時に、彼らの生産性も高くなる可能性が高まる。くわえて、仕事に対してコミットメント(責任)を示す可能性も高まる。そして、最後には、お互いが良い同僚になる傾向が強まる。これらの結果は、「inner work life」の3つの側面が、動機付けだけでなく、業績に対しても、大きな影響を与えていることを示す強力な指標であると、私たちは思っている。

例えば、ある人が、ある日、感情の状態がもっと肯定的なら、その日のみに、創造的な考えを発想したり、創造的に問題を解決したりする可能性が高くなるではなく、その翌日も、同様の結果になる可能性が高くなる。それは、翌日の気分とは関係ない。これこそが、業績に対する「inner work life」の影響なのである。

 

3. 部下の「inner work life」を改善するために、上司は何をすればいいでしょうか。

あなたはマネージャーが何をすれば、直属の部下の「inner work life」が改善できるかと尋ねた。では、その点を明確にしよう。マネージャーが「inner work life」を改善するために、感情的知性の天才になる必要はない。それが必要だとは思わない。また、絶えず、職場を歩き回り、部下を元気付ける必要もないと思う。もちろん、マネージャーが部下の感情の状態を深く掘り下げる必要もない。実際、それは非常にまずい考えだと思う。重要なのは、「Progress Principle」(直訳: 進歩原則)に注意を払うことである。

では、進歩原則について説明しよう。それは、上司が部下の「inner work life」を支え、人々が自分の肯定的な仕事人生を維持するために役だつ鍵となるものである。実際、個人は自分自身のためにこれができる。「inner work life」の効果を発見したのち、私たちは、何がその原動力になっているかを探ることにした。もし「inner work life」が業績を左右するのなら、何が「inner work life」に影響を与えているだろうか。この質問に答えるために、私たちは12,000個の日記を掘り下げた。社員が書いた全ての物語を読み、彼らが記録した出来事をおよそ64,000個のエピソードに分類した。彼らの仕事に対する気分が最高だった日々、つまり、社員たちが肯定的な感情や知覚を感じ、内因性動機付けが最も高かったときを検討した。これらの日を他の日と区別するために、それらの日に何が起こったかを分析した。その結果、社員たちが仕事に対する気分が一番良かった日には、目立つ頻度で、いくつかの肯定的なできごとが起こる傾向が強いことが分かった。

そのような出来事のなかで、他のすべてよりも際立ったものがひとつ存在した。その出来事は、意味のある仕事で進歩したという単純なことだった。それは、その人が、重要で、価値があると考えた仕事で、大切とみなしていた目標が達成され、仕事が前進した場合だった。これを、私たちは「Progress Principle」(進歩原則)と呼んでいる。一方で、私たちは、進歩原則には暗い側面もあることも発見した。社員の仕事に対する気分が最悪だった日に起こる最も顕著な出来事は、進歩の反対、つまり挫折だった。こうした日は、社員の仕事が妨げられ、行き詰まり、もしくは、仕事が何かしら後退してしまっていると感じていた。

社員たちが、とても漸進的に見えるような進歩を体験していたときにも、進歩原則が当てはまることが分かった。比較的小さい段階で仕事を前進させることは、その日に仕事に対する気分を劇的に改善する可能性がある。私たちは、これを「ささやかな成功の力」(power of small wins)と名づけた。事実、肯定的なものも否定的なものも含めて、28%のささやか出来事が、その日の仕事に対する気分に大きな影響を与えたことが分かった。また、否定的な出来事が否定的な方向に影響を与える度合いのほうが、肯定的な出来事が肯定的な方向に影響する度合いよりも強くなる可能性があることも分かった。この結果は、小さな出来事、大きな出来事を含め、すべてに当てはまる。もっと正確に言えば、挫折を経験し、自分の仕事が阻害された場合、仕事の進歩の肯定的な影響と比較すると、仕事に対する気分に対して、3倍から4倍程度の否定的な影響が発生する。

これらの結果はマネージャーに対していくつかの教訓を示唆する。そのひとつは、彼らは本当にささいなことでも気にかける必要があることだ。部下の主要な仕事の遂行を妨げるような日常の面倒に対して注意を払う必要がある。Jim Collins (Built to Last』を書いたアメリカ人のコンサルタント)が呼ぶ「大きくて、困難で大胆な目標」 (BHAG: big, hairy, audacious goals、ビーハグ)、つまり、高尚で、意欲的なプロジェクトの目標をもつことは素晴らしいことだ。大胆な目標は本当にやる気を起こさせる。しかし、人々に、より頻繁に小さな成功を体験してもらうには、大胆な目標をもっと小さなレベルの中間的な目標に分割すべきである。社員たちは、自分がもつ仕事に対する決定権に応じて、自分で、目標を分割することができる。プロジェクトを前進させながら、自分で中間目標を設定し、より頻繁に前進している感覚を体験できる。これが、マネージャーにとってのひとつの教訓である。

私たちは、日記の記録に戻り、マネージャーが社員の仕事の前進を支えるために何ができるかを確認した。以前の質問に対する私の答えを思い出してほしい。社員の仕事に対する気分(inner work life)を醸成するために、社員の仕事の前進を支えなくてはいけないと答えたことだ。これが、マネージャーができるもっとも重要なことである。仕事の前進は、社員の仕事に対する気分に対して、それほど強い影響を与えているし、挫折は、反対方向へ向かう強力な効果をもっている。このため、マネージャーは、私たちが「catalysts to progress (直訳: 前進の触媒、以下、促進要素という)と呼ぶ行動に注意しなければならない。従業員の仕事の前進を促進させるような7つの要素を私たちは発見した。それらの促進要素の多くは、直属の上司も含めて、マネージャーが強く支配できるものである。

1の促進要素は、意義のある仕事における明確な目標である。社員たちは何をしているか、そしてなぜ重要なのかを理解する必要がる。第2の促進要素は、仕事に対する決定権である。社員が明確な目標をもつことを確かなものにするために、マネージャーはプロジェクトに関係して社員がする全ての作業を微細に至るまで管理(マイクロマネジメント)する必要はない。実際、マイクロマネジメントされたら、社員が新たな解決策を探し出し、自分の特別な知識を使って、問題の取り組み方を決定する余地がなくなってしまう。明確な目標と仕事に対する決定権は、前進の促進要素の2つの基礎なのである。

加えて、従業員が、仕事に対する必要な援助を得ていると感じなければならない。仕事が困難になったときに、従業員は、前進を可能にする情報と専門知識を手に入れる必要がある。また、従業員は仕事に関する十分な資源を必要とする。そうした資源が贅沢である必要はないが、十分でなくてはならない。その場合、社員が委譲された仕事の代わりに、必要な資源を探すことに時間を割く必要がなくなるからだ。

もうひとつの促進要素は、成功のみから学ぶだけでなく、問題から学ぶことに由来する。これは、促進要素の中で最も重要であり、同時にマネージャーにとって最も難しい要素である。なぜなら、この要素は、社員が安心と感じる職場環境の構築を要求するからだ。従業員たちが、仕事のなかで失敗した実験と誤りを正直に打ち明けても良いと感じる必要がある。複雑で、革新的な仕事を行う場合、失敗や誤りは不可欠なものである。あなたが、誤りをおかさずに複雑な作業を遂行しているならば、あなたは創造性を発揮していないといえる。基本的に、マネージャーは本質的に次のような発言をする必要がある。「いつ、誤りが発生したかを知りたい。そうすれば、何が発生したかを確認でき、前進するためにその誤りはどのような意味をもつのかを理解することができる」

マネージャーは間違いと失敗を無視してはいけない。また、責任者を厳しく罰してはならない。そうすれば、将来、リスクを回避するようになってしまうからだ。これらの過度な反応は、挫折に対応する効果的な方法ではない。上層から下層までのすべてのマネージャーが失敗や間違いから学べる安全な職場環境が整えられている。そのようにみえる企業は私たちが研究した7社の中では1社しか存在しなかった。それは、その会社の雰囲気であり、従業員の仕事の仕方であった。もし何か問題が発生したら、彼らは次のようにいうだろう。「では、打ち合わせをしましょう。何が起きたか。この失敗からどのような有益な教訓を学んだらいいですか」。他の会社では促進要素の実施はそれほど成功していない。実際に、この点で最悪だった会社が数社存在した。

他の促進要素もあるが、すべては私の本に紹介さてれている。このインタビューには時間の制限があるために、そのすべては説明しない。いずれにしても、促進要素は、仕事の前進だけでなく、その延長として、肯定的な仕事に対する気分(inner work life)を醸成することにつながることを強調したい。

マネージャーも「inner work life」に直接影響を与える行動がとれる。私たちのデータでは、促進要素ほど、目立たなかったが、それでも重要である。私はそれを「nourishers (助長要素)と呼ぶ。人間の士気を高める要素である。これに対して、「toxins」(毒素)は、助長要素の反対の意味をもつ。

助長要素は明確で把握しやすい。例えば、尊敬と基本的な礼儀正しさは助長要素に含まれる。称賛、つまり、公的そして個人的に社員たちの貢献を褒めることも助長要素である。仕事が困難になるときに、励ましと感情的な支えが特に重要な助長要素となる。従業員が私生活や仕事のうえで困難な時期を経験しているときに、単に自分の理解を示すだけで効果を生む。そうした行為そのものが従業員を支援することになる。最後に、友好関係と帰属感覚、すなわち、同僚たちが人として知り合い、信頼し合うようになる機会を提供することも助長要素として機能する。この効果は仕事のすべての面に当てはまり、従業員がより効果的に協力する確率を高める。

 

4. 日本のような危険回避志向の強い国で、起業家活動を促すために、何が必要ですか?

危険回避の態度を克服するのは難しい。しかし、組織において、人々は、危険回避傾向を克服するためにいくつかの対策をとることができる。例えば、熟年の社員は若年社員と接触を保つことができる。自分自身がマネージャーまたは幹部の場合は、後輩でもいいし、個人で働いている熟年の社員の場合は若い同僚でもいいだろう。なぜなら、若い社員はしばしば異なる視点をもっているので、耳を傾けるとよい。つまり、彼らから学ぶことができる。さらに、若い社員のほうが現在の機会をより詳しく把握しているかもしれない。新しく、斬新な発想に心を開き、若者文化に対して受容の態度を保つことが、リスク回避志向の態度を乗り越えるのに役立つ。





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