2015年4月23日木曜日

2015-04-24 - ブルーボトルコーヒーが来日した!




独占インタビュー ブルーボトルコーヒー創業者兼CEO
「ジェイムズ・フリーマン」


2015114日(日本時間) インタビュー実施

ブルーボトルコーヒー(Blue Bottle Coffee)は、2002年にジェームス・フリーマン(James Freeman)氏によって創設された。現在、米国では、サンフランシスコ、ニューヨーク、ロサンゼルスの3大都市圏で16店舗を展開(20152月3日現在)。コーヒー豆は、厳しく厳選され、焙煎したての新鮮で美味しいコーヒーと顧客へのおもてなしを徹底的にこだわることのがブルーボトルコーヒーのフィロソフィーと流儀である。



カフェ業界のApple『ブルーボトルコーヒーの流儀』


1 サンフランシスコの美味しいレストランを紹介する日本語のブログも含め、様々なメディアがブルーボトルコーヒーを「カフェ業界のアップル社」と賞賛しています。アップル社に例えられるきっかけとその意味を何だと考えますか。ブルーボトルコーヒーはどのような点でアップル社に似ていますか。また、どのような点で異なりますか。

アップル社(Apple)は世界で一番の収入を上げている会社だ。ブルーボトルコーヒーがそうしたアップルに例えられることをうれしく思う。まず、どのように私たちがアップルと異なるのかを話したい。まず、当社の規模はとても小さい。アップルのように事業規模を拡大できない。その意味では、似ているところより、異なる点の方が多いと私は思う。

しかし、アップルと同じように、当社も注意散漫にならずにターゲットを絞っている点で、人々は評価してくれるのだと思う。私たちはコーヒーと顧客に集中している。それは、アップルが自社の顧客と技術に焦点を当てているのと同じだ。

また、アップルは外見上すべてをシンプルにしている。たとえば、アップルストアをとりあげよう。ストア内のテーブルは美しいカエデ材を使った家具に見える。しかし、セキュリティー機材、電源、インターネットの接続などの設備がたくさん入っている。そうしたもののすべてがテーブルの下にある一本の配線のなかに結びつけられている。その姿はとても「エレガント」だ。

私は、アップルのこうしたシンプルさにインスパイアされる。もしかしたら、そういった点が、ブルーボトルコーヒーがアップルと比較されてきた理由かもしれない。



2 ブルーボトルコーヒーというブランド名はどのように思いついたのですか。また、その意味を説明してください。

オーストリアのウィーンにあるザ・ブルー・ボトルは中央ヨーロッパの最初のカフェであった。当社のホームページにはその物語が掲載されている。典拠は定かではないが、戦争の英雄であるフランツ・ジョージ・コルシツキー(Franz George Kolshitsky)についての逸話がある。

1683年にトルコの軍隊がウィーンを包囲したときに、コルシツキーが、トルコの戦線に突き進み、ポーランド軍に支援の必要性を知らせることに成功した。その結果、トルコ人は、ウィーンから追い払われ、所持品を全部残して逃げ出した。地元の住民は、はじめトルコのコーヒー豆をラクダの餌に勘違いしたそうだ。

しかし、アラビアに住んだことがあるコルシツキーはそれがコーヒー豆であることを理解していた。伝説によれば、コルシツキーはウィーン市長からもらった報奨金でそれらを購入し、それをもとにしてザ・ブルー・ボトルを開業した。

ちなみに、包囲後に紹介されたクロワッサンも、この物語のなかの面白い外伝である。ウィーンのパン職人たちは、トルコの国旗にある三日月の形になぞらえたパン、つまり「クロワッサン」を発明し、それを貪るように食べてトルコに対する勝利を祝ったそうである。



3 あなたは、2002年頃、最初のコーヒー豆をオークランド市のファーマーズ・マーケット(農家市場)で販売しました。それ以来、ブルーボトルコーヒーはいくつかの都市に店舗を拡大し、大きく成長しました。その間に、ブルーボトルコーヒーは組織の力学や運用でどのような変化がありましたか。あなたはオーナーではなくCEO(最高経営責任者)になった今、どうやってあなたの「完全主義」の基準を維持しているのですか。

CEO(最高経営責任者)を務めるとともに、私は、依然オーナーの一人でもある。もちろん、100%のオーナーであろうと、0%であろうと、直面するチャレンジの内容は変わらない。基準についてのあなたの質問に答えれば、「維持する」ことは選択肢ではない。基準を維持するという考えは「作り話」だと思う。コーヒー豆の供給源と豆の処理を継続的に改善することを通じて、クオリティーを向上させることができる。

それができなければ、必ず悪化してしまう。こういう理由で、私は「維持」の代わりに、「改善」することを常に考える。今回の資金調達が可能にする贅沢の一つは追加資金で「品質」に投資できるようになったことである。当社は、環境に優しい豆に関わる調達部門や研修部門で品質管理に携わる人材を増やすことができた。言いかえれば、顧客には、この投資を目で確認する前に、当社のコーヒーとして味わってもらったことになる。

私は来年のコーヒーを今年よりも良いものにすることに関心を持っている。会社全体で、継続的に改良と改善に集中してもらいたいと思っている。過去1年間だけをみても、私たちはすでに品質管理担当の社員数を2倍にし、コーヒーの試飲回数(カッピング、テイスティング)は34倍に増やしている。

また、環境に優しいコーヒー豆を購買するスタッフも2倍に増やし、現在、コーヒー豆の原産地の外国を訪問するために以前より34倍のマイル数の距離を出張している。さらに研修の講師を増やし、研修カリキュラムを改訂し、人材教育部門を完全に作り直した。近いうちに、その新しい研修を導入する。それに向けて、現在、教育担当の部門長と一緒に協力しているところだ。

ある意味では、私は、かつてないほどに、事業全体をコントロールできる立場にあると感じている。なぜなら、今説明したような品質に対する投資をする余裕があるからだ。たとえば、私たちが買収した(ロサンゼルスを代表する)ハンサム・コーヒー(Handsome Coffee)出身のマイケル・フィリップス(Michael Phillips)氏が、今、研修教育全体を統括している。

ハンサム・コーヒーには、当社のなかにコーヒーの改善活動を植えつけるために活用できるチームが存在した。そのためにハンサム・コーヒーを買収したのである。このように、私と他の投資家にとって、会社が成長するにともない、ブルーボトルコーヒーの商品であるコーヒーを改善し続けていくことが、優先の課題なのだ。



4 ハンサム・コーヒーの買収の動機を教えてください。

当社は、ロサンゼルス市に事業を拡大しようと思っていた。しかし、規制や制限のため、コーヒーの焙煎工場を設置することが困難だった。

今回の買収の動機には、このような設備と不動産、そして素晴らしい人材チームを獲得したいという希望も含まれている。さらにロサンゼルスという魅力的な場所も買収の決定要素であった。ハンサム・コーヒー側の受容性(買収提案の受け入れ)を含め、関係し合う多くののことが買収の理由だった。

もちろん、ハンサム・コーヒー側も変化することに対して前向きだった。これらの要素を踏まえると、買収の判断は自然な帰結だった。



5 ブルーボトルコーヒーを創業したときに、どのようなチャレンジに直面しましたか。そうしたチャレンジをどのように克服されたのですか。

今現在においてもチャレンジ(課題)に直面している気がする。そもそも私はクラシック演奏家(クラリネット)としてキャリアを始めたので、ビジネスにあまり詳しくなかった。もちろんコーヒービジネスにも詳しくなかった。

一方で、私は、個人的に好むコーヒーの種類を知っていた。そして、そういうコーヒーを作りたかった。なぜなら、他の人もそうしたコーヒーを楽しむだろうと思ったからだ。もちろん、会社に関するビジョンと店舗ネットワークの成長、規模の拡大に関する課題は現在でも続いている。

私のキャリアにおける課題の多くは私が知らなかったことを学習することに関係している。人間に関することを学び、どのように人と接したら良いか、人が何に関心を持ち、何を欲しいと思っているか。そして、不動産に関すること。

毎年、私の仕事はその前の年と内容が異なっていると感じている。毎年、再スタートしている気がする。こうした感覚から、ときには疲れを感じるが、ワクワクする側面もある。それが、私が好きで選んだ人生である。



6 現在の奥様であるケイトリンは、当初、オークランドのファーマーズ・マーケットであなたのコーヒー販売をサポートするために密接に事業に関わりました。投資家から資金提供を受け、あなたがCEOを務める現在のブルーボトルコーヒーには、現在、ケイトリンはどのように関わっているのですか。

彼女は、まだ主任パティシエであり、調理担当のディレクターである。そのため、ブルーボトルコーヒーのペストリー(ケーキなどのスイーツ)のレシピを開発し、パン・ケーキ担当のマネージャーに作り方を指導している。

くわえて、新商品の導入のために、ケイトリンはマネージャーと協力している。デザイナーと協力して、適切なラッピング方法を開発し、店舗で販売している商品作りに密接に関与している。ブルーボトルコーヒーのカフェのあるすべての地域の焙煎工場にはペストリー厨房がある。なぜなら、私はカフェで販売するすべてのものが自社で作られた商品であってほしいと思っているからだ。

伝統的には、カフェは外部のペストリー業者から商品を仕入れてきたが、その方法は間違いだと私は思っている。外部の業者が提供するペストリーはそんなにおいしくないことが多い。私は美味しいペストリーが好きなので、自分のところで作っている。

ケイトリンは空間に関する感覚にも優れている。さらに、色彩感覚も優れている。私たちのカフェでは白いペンキが好きで使用している。そのため、適切な白いペンキの種類を選ぶ場合、彼女の判断に頼っている。ほとんど毎日、彼女の洞察力に頼っている。この意味でも、私は最良の相手と結婚できた。



7 ある企業戦略の分析家は、スターバックスが、より接ししやすい「カジュアル」なブランドに位置付けられる一方、ブルーボトルコーヒーはちょっと気取った(スノッブの)ニッチ*・ブランドにポジショニングされると結論づけています。この意味で、スターバックスは中流層向けの市場における日常のコーヒーと把握できますが、ブルーボトルコーヒーの現在のポジショニングの特色はどのような点にあると考えますか。

*ニッチとは、特定の需要や客層をもつ小さな市場のこと。大手の競合企業が参入しにくいという意味で、「隙間(すきま)市場」とも呼ばれる。

ブルーボトルコーヒーのポジショニングは「スノッブ(気取った)」だと思わない。そうした表現を使う戦略の専門家は、有名な大学を卒業したが、この産業で働いたことがないのではないだろうか。そうしたイメージが私には浮かぶ。

私はあまり時間をかけて、スターバックスや他のコーヒー会社のことは考えたことはない。それよりも、私は、多くの時間をかけて、私が作りたい商品について思考している。

楽しい物理的な環境(カフェ)で、おもてなしの気持ちをもち、フレンドリーで熟練した技能をもつ人間が提供する美しいコーヒー。そうした体験をつうじて、どのように私たちの顧客に驚かせ、喜ばせることができるかを常に考えている。

あなたが示した「スターバックスを、中間層の市場における日常のコーヒー企業として捉える」とい表現は正確だと思う。もちろん、それはスターバックスの経営上の課題だろうから、それについて私はコメントすることは差し控えたい。

私は、最高のエクスペリエンス(体験)を提供することに関心を持っている。私の関心は、最高に美味しいコーヒーを最高のおもてなしで提供することだ。そして、そうしたコーヒーを最も美しい場所で、様々な人々に提供したいと思っている。

顧客は、それを目にして、またはそれを体験するまで、一般的に何が本当に欲しいのか分からないと私は思う。

ブルーボトルコーヒーを創業する前に、市場調査で次のような質問をしたら、誰も「はい」とは答えないだろう。「あなたが好きだというより焙煎の薄いコーヒーが飲みたいですか?」「そのようなコーヒーを飲むために通常により長い時間を待ちたいですか?」「そうしたコーヒーに、普段より少し高いお金を払いたいですか?」

だからこそ、私は、自分たちの基準に沿って事業を展開したいと思う。もちろん、私たちは顧客の声に耳を傾けたい。そして、顧客が(そのときは)大好きになることを知らなかった何か(最高に美味しいコーヒー)によって、顧客を驚かせ、喜ばせることに、より大きな関心を抱いている。



8 別のインタビューで、あなたは、品質が改善していないのなら、品質は確実に低下しているという信念のもとで、絶えずその改善に挑んでいると述べています。コーヒーの品質を継続的に改善するために採用しているプロセスを説明してください。

私たちのプロセスは原産地からスタートする。当社のコーヒーのバイヤーは様々な国を訪れている。そのような国で、コーヒー豆の栽培農家と長期的な関係を維持している。

原産地で、コーヒーを試飲し、土地の状況を観察する。そうした観察項目には、コーヒーの木と実の状況だけでなく、労働環境、医療体制、学校の存在、上水の状況も含まれている。コーヒー豆の質の出発点は豆の原産地である。そのため、コーヒー豆が栽培される地域を徹底的にチェックしている。

コーヒーの購入契約を締結したのち、供給業者は私たちに試飲用の豆のサンプルを送ってくる。ちなみに、「カッピング」(cupping)とはコーヒー業界の専門用語であり、厳しい管理のもとで、コーヒーを試飲することを意味する。そのカッピングを点数化し記録する。

それから暫く後に、実際の豆が当社に配送されると、それを試飲し点数化して、最初のサンプルと比較している。そうした作業によりコーヒー豆の標準値を定める。それから、毎日、コーヒーを入れるたびに、それを試飲し、1~100点にいたる尺度で評価している。これがカッピング・スコア(試飲点数)と呼ばれるものだ。

これに加えて、「TTI」(True to Intent 意味:希望に沿う度合い)スコアも付けている。そこでは、1~5点にいたるまでの尺度を採用し、どの程度、コーヒーの味などが私たちの予想通りになっているかを計測している。

もし、私たちがエスプレソ用に焙煎しているブラジル産の豆に対して、ケネス(Kenes)用に焙煎しているケニア産の豆と同じ基準を設定すると、それは同一条件の比較にはならない。しかし、私たちがこのTTIスコアを、すでに記録していた点数と比較すれば、どの程度私たちの希望通りになっているかが評価できる。

仮に、TTIスコアが3.75点より低下すれば、そのコーヒーは顧客に販売しない。その場合、在庫から取り出し、焙煎し直す。もし、TTIスコアが3.75~4.25点の間なら、2回試飲し、希望通りになっていることを確かめる。私たちはTTIスコアが4.25点より高くなることを目指している。当社は、すべてのマーケットにおいて、焙煎するすべての豆に対して、この評価を行っている。

毎月の終わりに、私は品質管理の部門長と一緒に、TTIスコアを確認する。TTIスコアを参照しながら、豆を在庫から取り出すかどうかを見極める。同時に、前月と比べて、取り出した量が増えたか減ったかの境界線のどちら側にあるかを確認している。

くわえて、特定のコーヒー豆が問題を引き起こしているかどうか、倉庫で保存の効く時間が希望どおりか否か、を決定する。顧客に提供するときに、コーヒーが最も美味しくなるための基礎的な品質をコーヒーが維持できない可能性もあるので、こうした確認作業が必要となるのだ。

当社では、全社員が過去のTTIスコアを遡りそれを確認する方法を知っている。店舗レベルでも社員は品質を確認できる。仮に顧客が喜ばないようなエスプレッソが提供され、バリスタがその原因究明に苦しんでいるとしよう。そうしたケースでは、私はいつでもその日付に焙煎された豆のデータを確認できる。バリスタは、その後、そのコーヒーを使用豆から取り除くことができる。

私たちは、現在、大量のデータを収集している。むしろ、データ量を減らす方法を工夫しなくてはならない。そのプロセスは骨の折れる作業だが、私たちの焙煎と精製の継続的な評価を可能にしている。仮に、顧客への提供前に、質の悪いコーヒーを検出し使用豆から取り除くことができれば、私はワクワクする。そして、TTIスコアが改善しても、(喜びで)ワクワクする。



9 あなたは、自分が見てきた他のビジネスプランにはマーケティングやブランディング戦略が取りまとめられているが、商品の説明が不十分なものが多いと述べています。あなたは、商品に焦点を当てる重要性を強調します。そうするために、具体的に、どのようなアドバイスをしますか。商品設計または商品プロトタイプ*のシステムにしたがっているのですか。

*プロトタイプとは、新商品を実際に発売する前の段階として、その不具合を確認したり修正したりする目的で作成される試作品のことをいう。

ブルーボトルコーヒーの商品はコーヒーである。実際、カプチーノの「プロトタイプ」は作れない。できるのは、ただエスプレッソを抽出し、ミルクを蒸気処理することだけだ。このプロセスのために、継続的に商品を改善・洗練することを目指し、コーヒー豆のブレンド(組み合わせ)の調整を試す制度を設けている。

当社の中心的なブレンドの一種は、ヘイズ・バレー・エスプレッソ(Hayes Valley Espresso)と呼ばれるブレンドだ。私たちは、そのブレンドのいくつかのポイントを改善したいので、店舗のひとつで、一週間試す。そのブレンドが実際のカフェの環境で、どうなるかを確認したいのだ。

そしてサンフランシスコのベイ・アリア内で、規模のより小さい店舗で限定的な試験販売を実施する。それにより、実際のコーヒーがどのようになるかを検証することができる。

もっと広い意味でいうと、私たちは、カフェの基本的な運営項目をプロトタイピングしている。平凡に見えるが、私たちは調味料バー(condiment bar)のプロトタイプを試している。ナプキンはどこに置けばよいか。調味料バーの最初に並べるべきか。最後に並べるべきか。

12オンス(355 ml)と8オンス(237 ml)のカップの蓋がある。顧客の3分の212オンスンスのコーヒーを注文する。このため、12オンスの蓋を、8オンスの蓋に比べて、より顧客に近い場所に配置する。そうすれば、顧客がうっかり間違った大きさの蓋を取ることは少なくなり、顧客の動きをスムーズにすることができる。もちろん、顧客も喜ぶだろう。

ごく日常的に見える調味料バー(置き場)に関する項目であるが、議論したり、洗練したり、試したりする細かい点がたくさんある。こういう実験は、ベイ・エリア(サンフランシスコ湾)のより小さいカフェで実施される傾向がある。なぜなら、私や本社のスタッフが実際に現場へ行き、改善の効果を実際に検証できるからだ。



10 あなたは2012年に19.7百万ドルの資金を調達し、2014年は25.8百万ドルを調達した。資金提供者は、オープンソースのプログラムソフトウェア会社、「ワードプレス」(WordPress)の創業者マット・マレンウェッグ(Matt Mullenweg*、作家、いくつかの技術系新規企業の共同創業者、「バードマン」と呼ばれるスケートボーダーの神、トニー・ホーク(Tony Hawk)など、多様な投資家で構成されています。明らかにそうした投資家はブルーボトルコーヒーが投資に価する事業だと信じています。それはなぜだと思いますか?ブルーボトルコーヒーの何がこんなに多様な投資家を魅了していると思いますか。

*マット・マレンウェッグ氏は、米国の実業家。マレンウェッグ氏は、かつて、故スティーブ・ジョブズ氏やジェフ・ベゾス(アマゾン創業者)、スティーブ・バルマー氏(マイクロソフト社元最高経営責任者)に並んで、「インターネットで最も影響力のある25人」(ビジネスウィーク誌)のなかに最年少で選ばれたことがある。

当社への資金提供者はみな有能な投資家であり、同時に魅力的な紳士たちだ。彼らは、もともと、規模の拡大が可能で、魅力的で、さらには意味のある事業に対して賢明な投資をしたいと希望している。

投資にあたって、自分の財産のすべてをハイテク株に注ぎ込むことは得策ではない。すべての人々は分散投資のポートフォリオを持つことを望んでいると思う。これらの投資家はブルーボトルコーヒーのことをよく知っている。規模の拡大が可能な事業プランに存在する機会を認識している。彼らは、ブルーボトルコーヒーが事業規模を拡大することが可能だと考えている。



11 日本では、ドトールコーヒーとサンマルクカフェのような低コストのセルフサービス型のカフェ事業者にくわえ、コンビニも既に飽和したコーヒー市場に参入し、超低価格の100円コーヒーの販売に乗り出しています。なぜ、東京の清澄白河にある旗艦店が成功すると考えるのですか。東京都内と全国展開に向けて、現在、どのような戦略を持っていますか。他のカフェチェーンに比べて、ブルーボトルコーヒーの競争優位は何でしょうか。ブルーボトルコーヒーの競合企業はどこですか?

実は、私たちが成功するかどうか自信があるわけではないが、そうなるように願っている。前回来日したときに、100円のローソンコーヒーを飲んだ。驚くことに、1ドル相当の価格の飲料にしては、私が思ったより質が高かった。その価格で、(その価格水準としては)美味しいコーヒーを提供することは何らかの神業に近い。厳しい経済的な制約の中で、魅力的な商品を生産するこのような日本企業を尊敬する。

アメリカと同じよう、日本においても、スターバックスが現在のカフェビジネスの道を切り開いた。彼らは当社のような企業が恩恵を享受している現在のマーケットを創造し、さらにマーケットを継続的に発展させている。

たとえば、日本ではスターバックスが最初の全席禁煙のカフェの一つとなった。顧客は優雅に見える環境のなかで温かいおもてなしの挨拶を受ける一方で、価格はそれほど高くない。

スターバックスが日本で達成したことは、コンセプトを検証し、潜在需要を掘り起こしただ。そしてそれはアメリカでも達成したことだ。同社は、数多くの顧客を啓蒙し、コーヒーに関する彼らの好奇心を引き起こし、コーヒーに対する期待を醸成した。

顧客がもつこうした好奇心こそ、当社のアメリカでの成功を導き出していると思う。「うん、このコーヒーは美味しい。他のカフェにはどのようなコーヒーがあるのだろうか?」スターバックスに行く1000人の中の1人はそのように考えるだろう。

こうした人々の存在が、スターバックスのコーヒーの作り方、質、おもてなしの水準を上回るという当社の機会につながる。東京でも、同じ機会が存在すると私は思う。

東京のブルーボトルコーヒーは他の外資系企業とは違う。なぜなら、合弁会社でもなく、ライセンシー(ライセンスを受けた)の現地企業でもないからだ。米国のブルーボトルコーヒーがブルーボトルコーヒー・ジャパンに100%出資している。

このため、日本での事業展開はブルーボトルコーヒーの個性・特徴をそのまま呈している。ブルーボトルコーヒーのアメリカの店舗の雰囲気になるように設計されたので、そうした感じになっている。

私が東京にいる間に、私自身が、アメリカに住んだことのある日本人にインタビューした。清澄白河店舗のためのコップに入った花を作る装飾担当の人材に適しているかどうか確認したのだ。

このエピソードは、当社が、焙煎工場、ペストリー厨房、コーヒー・バーで当社の商品の外見や手触りに関して、どの程度詳細にこだわるかを物語っている。当社の目標として、ブルーボトルコーヒーの「本物」の体験を日本でも提供したいと思っている。本物の体験を通して、顧客がブルーボトルコーヒーに関心を持ってくれることを願っている。

最近、東京の青山に新規に美しい店舗を開業した。とても楽しくなると思うこのプロジェクトについて、ワクワクしている。その店舗のビルが大好きだ。2月に清澄白河で開業したカフェ店舗が日本国内の本部として利用される。

今年の2月に続いて3月に開業したのが青山店だ。ここ数ヶ月は私たちの予想が正しいかどうか、日本の顧客がブルーボトルコーヒーに関心を持ってくれるかどうかを判断したい。私たちの判断が正しいことがわかれば、東京の他の地域で店舗を開業する機会を追求していく。

私たちの東京チームは3人の女性で構成されている。彼女たちは驚くべき才能ともった女性たちだ。ナミコ、アサミ、サキの3人。彼女たちが基本的にブルーボトルコーヒー日本を運営している。

彼女たちは、こちらオークランドを訪れ、私たちと一緒に長い時間を過ごした。私たちも、日本で彼女たちと一緒に長い時間を過ごした。ある意味では、彼女たち3人は(ブルーボトルコーヒー日本という)三脚チェアを支えている足のような存在である。

彼女らのもとで、東京の店長を採用した。スタッフには、流暢な日本を話す複数のアメリカ人もいる。その一人が、品質管理を担当し、もう一人が店長になり、3人目が主任のバリスタを務める。長髪で、ファッション用のタトゥーをしているかもしれないアメリカ人のバリスタ。そのバリスタが洗練された日本語を話す。

そうしたバリスタに対応されるならば、日本の顧客は驚くと同時に喜ぶと私は思う。日本人の顧客は、私たちが顧客側に近づこうと最善をつくしていることに気がつくだろう。



12   あなたは、以前のインタビューで、伝統的な日本の喫茶店に言及しました。そこから何を学びましたか。ブルーボトルコーヒーには、日本の喫茶店に特徴的な「職人」の心構えがどの程度反映させていると考えますか。

私は、日本の喫茶店(kissaten)で体験した完璧さへの献身的な姿勢が大好きである。喫茶店主たちは、従来から常にそのようにしてきた。これから将来もそうし続けていくだろう、

彼らの流儀(スタイル)は正しいと、私は絶対的な確信をもっている。私が好きな喫茶店の平穏で静かで穏やかな雰囲気が大好きである。まるで祖母の家を訪れているような、古風な感覚を覚える。そして、意味をもつあらゆる詳細な作法に目が行き届いている感覚が好きだ。

私の好きな喫茶店のひとつでは、店主がコーヒーカップを受け皿に置く前に、そのカップを暖めるように、ソーサー(受け皿)も暖める。こうした完璧さを尊敬する。一方で、私は、日本的な「喫茶店」のチェーンを展開したいとは思っていない。なぜなら、(アメリカ流の)もっと近代的な方法を取り入れることが大事だと思っているからだ。

先ほど、あなたは、日本人の職人感覚、彼らの工芸への献身的な態度について(質問のなかで)指摘した。私もそれは正しいと思う。

当社はカリフォルニア州のシリコン・バレー(IT産業とベンチャービジネスの中心)を拠点としている。だから、(シリコンバレー流の数値的な)「測定」という手法を利用する。

コーヒーを入れたら、秤(はかり)と温度計を用いる。それがブルーボトルコーヒーの企業文化の一部だ。同時に、コーヒーを提供する技巧のプロセスに対して献身的なアプローチをとる。

伝統的に、東京のコーヒーはかなり濃い。そして、東京のカフェは(コーヒー豆の)ブレンドを強調している。コーヒーの抽出の割合は高く、とても濃い。顧客は当社の抽出の手法になじんでいるが、味は少し薄く、抽出の割合はかなり低い。

日本で利用されている伝統的な特定のツール(道具)の使用法、手法、材料に対してブルーボトルコーヒーの流儀を適用していきたい。



13 おそらく、日本人はコーヒーを楽しむときに、立ちながらよりもテーブルで座って飲むことを好むと思います。そうした文化の違いを調整するために、店舗管理の現地化(ローカライズ)に関して、どのような計画を持っていますか。

ブルーボトルコーヒーには、小さな店舗、いわゆる「キオスク」(売店型店舗)がある。当て付けでいっているのではないが、(寒い東京に比べて)こちらサンフランシスコの今日の気温は華氏66度(摂氏18.9度) だった。ちなみに私はセーターを会社に持ってきたが。

この天候なら、キオスクに歩いて立ち寄るのは快適で理にかなっている。ニューヨークには、いつくかの小さな店舗をもち、テーブル席のある大きい店舗も複数ある。

東京の青山店は、大きな店舗だ。70前後の座席がある。フードメニューも充実している。清澄白河の焙煎所内にも20程度の座席があり、外にも座席が用意してある。これは、日本の文化に影響された対応だが、とりわけ日本の天候をより意識したものだ。

日本の暑い8月に、焙煎所の前で、立ちながらコーヒーを飲みたいと思う顧客はいないだろう。逆に、寒い1月も外で立ってコーヒーを飲みたいとは思わないだろう。

日本の顧客の嗜好に合わせて、座席数などの物理的な要因を調整したい。しかし、コーヒーは調整するつもりはない。アメリカと同じ入れ方や基準を採用する。



14 あなたは羽田空港と下町を結ぶ便利なモノレールにそれとなく言及しながら、東京は近代的で、未来都市があるべき姿を呈していると述べました。もう少し一般的にいうと、東京と日本に関して他にどのような点が好きですか。逆に、日本と日本の文化についてあまりよくないと思う側面はありますか?

日本については、組織化と規律正しいところが大好きである。私はエスカレーターに乗るたび、通行する側と立つ側がいつも分かれていることに驚く。

ニューヨークの地下鉄で急ごうとしたら、大変なことになってしまう。ニューヨークではエスカレーターの両側に人が立ち、進む道を塞いでいる。

日本人が習慣に関して普遍的に認識し、それを普遍的に採用する点がとても好きだ。また、東京は息を呑むほど清潔で安全である。サンフランシスコやニューヨークでも、特に不安を感じる訳ではないが、東京の環境のほうが、著しく安全で清潔だ。

さらに、東京の合羽橋にある数多くの小規模店が大好きである。「スツール(三脚チェア)を購入するのはこのお店」「あそこのお店には食品の模型(サンプル)がある」。

東京という広大な都市のなかにあるそれぞれの地区の独自の趣、そして、その「小ささ」がとてもいいと思う。

渋谷も凄い。渋谷には多くの鉄道が乗り入れ、世界で最も混雑している場所の一つだ。しかし、駅からほんの5分間歩いただけで、小さくて、穏やかな裏通りがある。そこでは、まるで、大都市から百万マイルも離れている場所にいるように感じる。私は、東京の特徴である「スモール(小ささ)」が大好きだ。

実は、日本語が話せたら、いいなと思う。Nihongo sukoshi benkyoushiteimasu.”(日本語、少し勉強しています)



15 どのように人材を選別していますか。どのように採用したスタッフに御社の哲学を理解させるのですか。

今日、このインタビューの直前に、2件の面接を行った。マネージャーが採用される場合は、必ず私が最終的に承認する。

承認する前に、それぞれの応募者と電話で直接話し、または直接面接を行う。マネージャーがどんな人かを感じ取りたいからだ。

採用を担当しているマネージャーの決定を私がくつがえすことは滅多にない。しかし、必要なら、私の段階でくつがえすことができるということは分かっている。一人ひとりのマネージャーと面接を行っているので、マネージャーは一番始めからブルーボトルコーヒーのチームの一員だと感じる。このような帰属意識が共通の価値観の醸成に役立っている。

商品であるコーヒーについて教えることは難しくない。数ヶ月の研修の後、あなたでも、かなり詳しくなる。だから、焙煎担当の主任のような専門的な仕事以外は、面接を行う際に、コーヒーについての部分にあまり重きを置かない。

人材教育で難しいのは、礼儀、時間厳守、気配りを人に教えることだ。当社としては、既に、この種の「永遠の」価値観を持っている人々を採用したいと思っている。(そうした人材として)現在、当社には高級レストラン出身のスタッフもいる。最近、ワイン醸造所出身のマネージャーが入社したところだ。



16   あなたの大学の専攻は、経営学や経済学ではありません。MBA(経営修士号)も保有されていません。経営に関する正式な教育を受けていないことによって何らかの形で、不利な状況に置かれてしまっていると感じたことはありますか。もしそうなら、そうした不利をどのように埋め合わせていますか。反対に、プロの音楽家としての訓練と経験は、どのように現在のビジネスの進展に貢献しているとお考えですか。

MBA(経営修士号)を持っていないことが、逆に有利だと私は思っている。

開業したとき、2万ドル(200万円)と数枚のクレジット・カードを持っていただけだった。その額で十分以上の資金だと思ったので、ブルーボトルコーヒーを開いた。その当時、ビジネスに詳しかったならば、「そんなに少ない資金で事業を起こすなんて、不可能!」と思ったであろう。その意味で、普通の制限や限界を知らないことが有利となる。

それに、私はMBAの保有者を採用できる。実は、私のチームにはMBAが一人いる。

だから、ビジネスの教育を受けたことがないことは制約にはなっていない。むしろ、それにより、物事を新鮮な視点でみることが可能となる。

クラシック音楽を練習するときに、1000回も何かを繰り返すことが普通だということが、私は分かっている。それが、一日の練習のシンプルな部分だ。

しかし、このような規律に慣れていない人にとって、この繰り返しは「一大事」になる。プロの音楽家になるには極度の規律が要求される。そのような規律に比べれば、現在やっていることはそれほど難しいことではない。クラシック音楽家として訓練を受けたことにより、ブルーボトルコーヒーの事業を展開するうえで確かに有利になっている。



17 あなたの経験にもとづき、首尾よく会社を立ち上げ成長させるために、どのようなアドバイスを提供しますか?

とにかく商品に集中することだ。あなたが商品の長所と短所を認識し、商品改善に努力していたら、事業を軌道にのせるための必要条件は備えている。

もちろん、こうした作業に集中するだけでは不十分かもしれない。でも必須である。他の詳細は後回しにしてもよい。自分自身を商品に注ぎ込むことが最も大事な要素だと思う。しかし、そのことは頻繁に見逃されてしまうことでもある。

18 マーシャ・シネター(Marsha Sinetar)が『Do What you Love, The Money Will Follow』(ワクワクする仕事をしていれば、自然とお金はやってくる、1989年)を読んだことはありますか。ある意味で、あなたは、2回も彼女の提案に従いました。一回目はクラリネットの情熱を追求しました。これは残念ならら成功しなかったようです。しかし、コーヒーについての情熱を追求した今回の2回目は大成功を収めています。自分の経験を踏まえて、どのようにシネターの指摘を評価していますか。最初の失敗の経験が2回目の成功を導いたことから、どのような教訓を学びましたか。

私の最初のキャリア(職業)を踏まえると、本の題名を「ワクワクする仕事をしていると、徐々に、正気を失っていく」と改題したい。クラリネットの音楽家の時代はそうした改題タイトルを地で行っていた。

この本の題名は一種の特権を示唆していると思う。この世界、この国、この都市で、好きだからでなく、それやらなくてはならないから現在の仕事についている人たちがいる。

ある人がビル管理人として働いているかもしれない。それが本人の希望だからでなく、光熱費と家族の食事代を稼がなければならないからだ。私は、愛する現在の仕事の成功を、何かの魔法のせいにしたくない。

もちろん、私は、幸運だった。すべてがうまくいった。私は今の仕事を楽しんでいる。そして、それをとても幸運だと感じている。しかしながら、シネターの提案が普遍的に当てはまるとは思わない。


(了)