2014年9月29日月曜日

2014-09-29  「持続可能な競争優位」から「一時的な競争優位」の時代へ

 

 
HIP (Hard-working, Inspirational, Passionate) People Place と名づけたこのブログの目的は、企業経営者、起業家、政治家、教育者などにインタビューを実施し、アメリカの著名思想家や成功を成し遂げた人々の考えと経験を日本語で共有することにあります。日本の読者の皆さんに、彼/彼女らの意見を直に伝えるため、インタビューの内容を、そのまま和訳して掲載しています。

 今回は、米国の名門コロンビア大学経営大学院のマクグラス博士(Dr. Rita McGrath)に、「一時的競争優位論」(transient competitive advantage)について語ってもらいました。マクグラス博士は、グローバル化や技術の進展などにより、マイケル・ポーター博士(ハーバード大学)が提唱している「持続可能な競争優位」(5つの競争要因分析)が経営戦略の分析においてなかなか通用しなくなってきていることを説明してくれます。ちなみに、マクグラス博士は、米国において、現在、マイケル・ポーター博士よりも、影響力が大きい経営思想家に雑誌などでランキングされています。

 このブログが、皆さんの仕事または人生において、何らかの形でお役にたつことを切に願っています。現在、ノーベル経済学者、IT企業の若手起業家、社会起業家などへのインタビューも鋭意取組んでいるところですので、このブログで、順次紹介していく予定です。

 また、本ブログにつきまして、読者の皆さんからの改善に向けたご提案/ご意見も大歓迎します。どうかご遠慮せずに、私までお伝えください。



 
 
リタ・マックグラス博士(Rita  McGrath)。コロンビア大学ビジネススクール教授。専門は経営戦略論。経営学のアカデミー賞といわれる『世界で最も影響力のある経営思想家(2013年)』(THINKERS 50)の第6位にランキングされた。
 
 

「持続可能な競争優位」から
「一時的な競争優位」の時代へ

 
今、なぜ世界でリタ・マックグラス博士が提唱する「一時的な競争優位」論が脚光を浴びているのか?

これまで、競争戦略論といえば、「持続可能な競争優位」論が世界の主流を占めていた。ハーバード大学経営大学院教授マイケル・ポーター博士の「5つの競争要因」のフレームワークがその代表だ。もちろん、依然として、「持続可能な競争優位」の考え方が通用する産業が存在する。そもそも、「持続可能な競争優位」の戦略は、企業はなるべく競合企業と競争をしないで、産業構造として、長期的な競争優位を維持すべきであるという考えにもとづいている。たとえば、石油産業や自動車産業を例にとろう。こうした産業では、産業内にいくつかの巨大企業が存在し、自社は競争優位にもとづきその企業と長期的に競争し優位性を維持すればそれでよかった。つまり、持続可能な競争優位を構築し、できるだけ長期にわたって利益を確保することが戦略の根幹であった。

 一方で、インターネット時代の本格化やグローバル競争の激化により、今日、産業の領域そのものが不明確となり、いやむしろ崩れ去る状況が生まれている。たとえば、テレビ、情報通信、コンピューターの分野では、産業の領域が重なり合っている。こうした状況をみると、もはや「産業」と定義することは適当でない状況が生まれている。むしろ、こうした場合、マックグラス博士が提唱するように、「アリーナ」、つまり、企業が競争する場所/市場と考えたほうが分かりやすい。

 そして、産業ではなくアリーナとなった市場では、企業が競争優位性を維持できる時間が従来に比べてきわめて短期間になっている。

 こうした状況を受け、マックグラス博士は、企業が生き残っていくためには、「一時的な(トランジェント)競争優位」を構築し、速やかに利益を享受し、ビジネス機会が消滅したら迅速に撤退する一時的な戦略を実践し、そのプロセスを連鎖させていく必要があると説く。



1. あなたは、「持続可能な競争優位」をもつ企業は例外的であり、企業は「一時的な(トランジェント)競争優位」に基づいて競争するために、定期的に変化しなければならないと主張しています。デジタル技術や激化するグローバルな競争の影響を視野にいれながら、近著『競争優位の終焉』(The End of Competitive Advantage)を執筆した背景を説明してください。

 

The End of Competitive Advantageの根本的なコンセプトは、私たちが教えている内容と、学生に理解してもらいたいことや現実の世界で起こっていることとの間に生じている「ずれ」に起因する。「持続可能な競争優位」という考え方が当てはまる経済/産業分野はどんどん少なくなっているように思う。事実、この本を執筆した動機は次のような点にある。実際に私たちは、持続可能性や長期的な安定性という概念を広めようとしていることにより、人々を誤解させていると私は痛感した。その結果、最終的に、人々に間違った反応をさせているのである。そうしたことが影響し、たとえば、普通であるはずの「変革に対するマネジメント」は、珍しいものになっている。新しい事業機会を追及するためにリストラクチャリング(構造改革)や組織の再編を実施しようとすることが、いつもやるべき活動ではなく、まれにしか行わない「変わった」活動だとみなされてしまう。言い換えれば、一時的な競争優位を追求するために組織を構築したら、多くの場合、持続可能な競争優位のために構築する場合とは違う多くの決定をすることになる。

高名な西洋の経営学者やCEO (最高経営責任者)は、初めのうち、維持可能な競争優位に対するあなたの意見、つまり「一時的な競争優位」にどう反応しましたか。肯定的な反応と否定的な反応と両方の興味深い例を挙げてください。

成功に伴うマイナス面は、多くのものを失うことだ。成功は、私たちを特定の方法に固執させる傾向がある。私の本に対する反応は三つのパターンに分けられるだろう。第一は「否定」である。現在、私は、プライベートバンク(個人資産管理銀行)の顧問を務めている。そのCEO(最高経営責任者)は次のように私にいう。「ほら。プライベート・バンキングの仕組みは300年間一切変っていない。あなたは私に大量の預金を預け立ち去る。10年後、あなたが帰ってきたら、元本に利息がつき残高がさらに増える」。私は彼を見ながら、「モバイル・バンキング(携帯電話を利用した銀行業務)やビッグデータ」のことを考えている。これが否定のパターンで、「われわれのビジネスには当てはまらない。気にしなくてもいい」という反応をする。ちなみに、私たちは、このCEOを説得し、考え方を改めるように働きかけている。

第2の反応パターンはパニック(狼狽)だ。「それは、たいへんだ。世界が変わり始めている。あらゆる方法で対処しなければならない」。まるで、タスマニアデビル(動物)のように、右往左往している感じだ。こうした反応も決して生産的とはいえない。

 第3の反応は、実際の安堵感である。「よかった。ホッとした。やっと、誰かがこの現象に名前をつけてくれた」。その結果、私たちは、次に何をしなくてはならないかを考えることができる。つまり、これから、過去に行ったものの中から、何について違う方法で実施していくべきかを考えることができると。

今までのところまで、私が意見を述べた顧客企業では、これらの3種類の反応があった。すでに、プライベートバンクのCEOの話は紹介した。第2の反応パターン、「右往左往している」段階では、企業は無謀にもあらゆる事業機会に投資する。これを代表する業界のひとつは、「MOOC」」 (Massive Open Online Courses)、つまり大規模公開オンライン講座をめぐる教育領域である。「さあ、ビデオだ。オンラインだ。無料化だ。いや違う。有料制だ」。業界全体で、何が通用するのかを探るために、あたかも狂乱しているかのようにすべてを試している最中だ。一方で、「一時的な競争優位」の概念を受け入れる企業は先見の明をもっていると評価できる。コネティカットに本社を置くFactSet社は素晴らしい一例である。同社の事業は、基本的には投資家に財務情報を提供することだ。もちろん、同社は事業環境が変わっていることを認識している。革新的になる必要があることも認識している。同社は、一貫して大きな賭けをしているが、焦点が定まっている。同社は焦点を絞って、意図的に、何に投資していくかを決定している。


3つの反応を、パーセンテージでいうとしたらどのくらいになりますか?

おそらく、否定の反応が40% で、右往左往するのが30%程度ぐらいだろう。そして残り30%は冷静かつ先見の明のあるタイプだろう。


こうした3つの反応を考える場合、どの程度、アメリカ以外のグローバル企業の顧客との経験に基づいていますか。

私の考えは、最初から、米国企業に関連する経験というよりは、グローバルな視点にもとづいているといってよい。



2. 企業とその幹部は、現在の成功を生み出した戦略を自然に継続する傾向があります。そのため、「一時的な競争優位」が前提とする「絶え間ない変化」に対してかなりのストレスを感じる可能性が高いといえます。一時的な競争優位の時代において、様々な場面(アリーナ)で競争できるようになるために、組織はどのような行動を取るべきでしょうか。マーケティング、人事、研究開発、組織全体に対する具体的な提案を教えてください。

 

まず人事管理から説明しよう。私が人事部の社員と話す際のジレンマ、そしてフラストレーションのひとつは、彼らが採用している人材開発の典型的な手法にある。彼らは、コンピテンシー(行動特性、能力)のリストを持っている。そのリストには、例えば、「他人を鼓舞する」「明確なビジョンを広める」「考えをはっきり伝える」などが記載されている。彼らは、従業員が実施できると思われる全体的なリストをもっており、仕事を進めるにあたって、該当する項目に「チェック」の記号をつける。私は、むしろ、こうした方法ではなく、従業員が体験したことから得た知識をもっと重視すべきだと考える。「自分の考えを明確に伝えるかどうか」ではなく、事業の立ち上げに取り組んだことがあるか。M&A(合併/買収)を体験したことがあるか。事業縮小を経験したことがあるか。そういった体験にもとづく知識が重要だ。

これまで積んできた経験のうちどれが、社員自身が将来、何かを成し遂げるうえで役に立つ能力となるのか?企業がよくやることは次のようなことだ。従業員が経験したことのない新規の業務に関して、何をすべきか完全に把握することが期待される環境に従業員を置いてしまう。たとえば、米国のミルウォーキーでしか働いたことのない社員を中国の北京に送り込んで、何をすべきかを理解していることを期待する。人事部として改善すべき点は、その人材に、次にしてもらいたい仕事を効果的に遂行する能力があるかどうかを見極めることにある。

人事部の第2の課題は、キャリアパス(昇進経路)が必ずしも「梯子」(はしご)ではないことを学ぶことである。私たちは次のようなイメージを抱きがちである。「会社に入社する」のが、梯子の一番下の段。たとえば、それが第37段で、業績にもとづいて、上方の第4段まで昇っていく。しかし、現在、社員は必ずしもそのようにキャリアをつくりあげたいと思っていないのではないかと私は思う。私たちが考える伝統的な、グレー色のスーツ姿が象徴するような従来のキャリアパスと、将来作り上げなくてはならないキャリアパスとの間には、大きなズレがある。そうした状況において、人事部が担う役割は大きいと考えられる。それは、不幸にも人事部の社員が現在携わっている手続重視で、規則遵守中心の役割とはまったく異なる。その役割はもっと戦略的になるべきだと思う。

第2に、マーケティングに関しては、次の点が大きな課題になる。すなわち、機動性をどのように評価するか、そして取り巻く環境が変化するにつれ、適切に変化できるブランドをどのように構築するかということだ。巨大なブランディングのキャンペーンを実施するかわりに、もっと柔軟で、機動性をもったブランドをどのように構築するのかということが重要になる。

3に、イノベーションを行う場合、初期段階で大量の資金を提供しすぎると、新規事業が達成しなければならない事業能力を歪曲する効果が発生する。資金が潤沢で何でも手に入る場合と比較すると、少ない資源できわめて効率的に事業を実施しなければならないときのほうが、より創造的で、機略に富んだ行動をとるようになる。そうしたことを前提にした場合、私は、R&D(研究開発)の役割は依然として非常に大きいと思う。

ここでとりあげているR&D には2種類がある。まず、科学的な課題に取り組む技術的なR&D。次に、市場にもう少し近いR&Dもある。技術的R&Dが依然としてとても重要だが、すぐに結果がでないため、多くの企業はこの部分を他の企業に任せたいという意味で過少投資していると考えられる。この種のR&Dにより、ときには画期的なイノベーションを達成できると思う。Qualcomm社のような会社を考えると、その画期性は、既存の基準より通信速度が数桁ほど速い移動通信網を開発することにあった。この技術は、既存技術を本格的に打ち破って、これがなければ、不可能な多くのことを可能にした。これが、本格的な技術的イノベーションの一例である。しかし、多くの企業にとって、このような技術的R&Dは正解ではない。正解は、顧客の経験に近づき、それらの顧客体験を他の企業が実現できないレベルに高めることにある。

現在においても、持続可能な競争優位を保有する例外的な企業が存在すると考えられます。そうした企業の特徴は何でしょうか。これらの会社の成功は、偶然や幸運によるものなのでしょうか。

確かに、自動車産業はそうした成功例に入る。なぜなら、企業を現在のポジションに固定させる要素が組み込まれているからである。あなたは自動車ディーラー網に言及した。それは高い参入障壁をもつビジネスだ。明日、まったくの白紙から自動車会社を立ち上げようと思ったら、とても難しい。既存の自動車会社を現在の位置に固定させる要因が多く存在する。米国の有線テレビ会社もこうした例に当てはまる。私は、有線テレビ会社はいつでも逆転されると予想しているにもかかわらず、まだ生き残っているようだ。

大手の移動通信会社もこうした事例に該当する。高い参入障壁があり、他社にとって模倣が難しいネットワークが組み込まれている。そうは言っても、数年前にこのグループに入ると思った多くの企業がこの産業から退出させられている。電力配電事業もこの例に入る。いったん発電所を建設したら、数十年間、運用できると長い間考えられていた。しかし、現在、こうした企業は、グリーンエネルギー、分散型エネルギー、風力、再生可能なエネルギー資源、蓄電池との競争にさらされている。十年前には想像がつかない様々な技術が産業に参入してきている。もちろん、相対的に持続可能な競争優位を維持する産業も依然として存在するが、以前よりもどんどん少なくなっている。

経営者が「一時的な競争優位」の概念を正しく理解しなければ、企業の進路を誤らせるようなその場しのぎの戦略の策定、実行のリスクに晒されます。経営者は、どのようにしたら、こうしたリスクを最小限にとどめ、一時的な競争優位に基づく長期的な戦略を策定、実行できますか。

そのマネージャーが会社のどの層にいるかで答えは異なる。企業の最も高い層では、課題は戦略的なテーマを設定し、事業ポートフォリオを管理することだと思う。事業ポートフォリオにおいては、中核事業を強化し、健全な状態に保つ計画が望まれる。これが最優先課題となる。なぜなら、これをしっかりやらなければ、他の投資のための資金を獲得することができないからだ。次に、次世代の中核事業を立ち上げる投資を行う。誰でも知っている例を挙げると、アップル社はコンピューター製造から音楽再生デバイスに移り、それから携帯電話の製造に参入した。それぞれが将来の開発の基盤になった。それが将来の中核事業になるわけだ。

その他にも、選択肢となる投資もある。私が属する産業である「教育」を例にあげると、オンライン事業、ゲーム、オンラインコミュニティーに対する投資は、今日、現行事業の選択肢と考えられる。現時点では、これらのどれが最終的に成功する選択肢になるのか分からない。しかし、今日において、これらに投資しないと、将来の発展から閉め出されてしまうだろう。リーダーやマネージャーの仕事の難しい部分は、これらのすべての課題を解決する、すなわち、現行事業の管理、将来の中核事業への投資、そして将来の選択肢の追求を適切に管理するポートフォリオを作り出すことにある。CEOまたは上級幹部のスキルとしては、中核事業、あるいは選択肢の追求に一方的に専念しないように、巧みにこれらの課題を調和させることが求められる。つまり、そのすべてのバランスが維持されているかをいかにして確認するかが重要となってくる。


(追加質問)あなたは、企業が成功しているとしたら、企業を前進させ、競争優位になる可能性の高い「低コストの選択肢」にもっと投資すべきだと提案していると理解していいですか。

そのとおりで、それがカギだと思う。多くの企業が抱えている問題は、選択肢に適切に取り組む金融的なシステムや報酬制度を欠いていることにある。

 


3.かつて優勢だったソニー、松下、任天堂は、優れた日本的経営手法の象徴的な存在だと思われてきました。現在、こうした企業は業績悪化に直面しています。こうした企業の経営をどう評価しますか。どこに問題があると考えますか。

 
歴史的にみると、全盛期のソニーや富士フィルムのような日本企業は既存企業がうまく満たしていない新しい顧客のニーズを認識するのが得意だった。日本企業が苦現在労している点は、具体性の伴わない革新的な発想をすることだと思う。198090年代に日本企業が長けていたのは、多くの場合、既存の商品の品質、物流の仕組み、そして商品が利用されるエコシステム(全体的な環境)を考え直し、優れた商品を開発することだった。しかし、そうしたものは、画期的な革新ではなかった。キャノンはその良い例だ。数年前に、キャノンの写真式複写機の市場参入を導いた山路敬三とういうエンジンニアに素晴らしいインタビューを行った。彼の話はとても興味深かった。「日本人は具体的に物事を考える傾向が強いため、日本では決してコンピューターを発明したくない。でも、絶対、日本で製造したい」。まったくの白紙から新しい発想を工夫することと、最善の方法で製造することを区別した彼の考えは興味深いものだった。

たとえば、日本で教えるときに、アメリカと同様に、グラフや思考のフレームワークを使ったら、どの生徒も理解してくれるだろう。しかし、日本の場合は、その内容を具体例や特定の事例につなげる必要がある。日本人は、アメリカ人とは随分違う思考方法のトレーニングを受けている。

 

4.ビッグフォーであるグーグル、アップル、フェイスブックとアマゾンの一時的な競争優位の源泉は何だと思いますか。どうやってそれを獲得したと考えますか。

 
それぞれの企業について順番に説明しよう。グーグル社は潤沢な資金をもつ。同社のこれまでの戦略は、失敗に寛容で、数多くのことを試してみることであった。その結果、検索エンジンを超えた数多くの新たな分野に辿り着いた。グーグル社によって生み出されている不安定要因は、同社が、開発した技術を無料で提供することができる点にある。なぜなら、グーグルの主な事業は、依然として、顧客を理解し、彼らに広告を適切に提示することにあるからだ。Gmail、スマホ、アンドロイド(オペレーティングシステム)などは自社の主な目的ではないので、無料で提供できる。まだこの秘訣を解読できたない他業界の企業にとって、グーグル社の経営方針は攪乱要因を作り出している。その意味で、グーグル社は自社の中核事業のウエブ検索を強化する複数の方法を見つけることに成功した。

アマゾン社は非常に興味深い事例である。なぜなら、利益を出していないからだ。アマゾンの興味深い点は、ジェフベゾス氏が数年前に開発した中核的な信念に従い、会社として依存できる革新事業に焦点を当てることにある。たとえば、顧客は、コストが高く、配達が遅い本など欲しいとは思わない。(そうしたなかから、電子書籍が誕生した)。アマゾンはかなり確実なものに焦点を当てながら、次世代の商品開発に取り組んでいる。

アマゾンについて一番面白い点は、第三者販売(Third-Party Selling)に参入したことだ。それは一夜にして実現したわけではない。始めのうち、アマゾンオークションをスタートし、オークションの分野で、eBayと競合していた。その後、アマゾンは、ウェッブサイトの別のところで「Z Shop」を設立し、第三者が提供する商品を掲載した。しかし、その手法はうまく機能しなかった。今現在、アマゾンの商品のすぐ横に、第三者が提供する商品を掲載している。クイジナート・ブランドのトースターがアマゾン社の商品のすぐ横にリストアップされることに気づくアマゾンのマーチャンダイジング(販売計画)の驚きと悔しさを想像できるだろう。現在、第三者販売はアマゾンの全売上の35%ほどを占め、大成功を収めている。アマゾン社は、失敗を否定的に捉えず、実験を行い、試行錯誤を続ける意思を持つ興味深い事例だ。

フェイスブック社は個人的にかなり気になっている。現在、20代の私の子供は、かつて、毎日、フェイスブックをチェックしていた。今は、それほどでもない。最近、私の年齢層の人がフェイスブックを利用している。いったん、自分の母親がフェイスブックを使い始めたら、子供は使い続けたいと思うだろうか。フェイスブックが、最近、メッセンジャーアプリのワッツアップ(WhatsApp)社を買収したのは、自社のビジネスモデルが持続可能ではないと考えていることを示唆しているのではないか。

アップル社については、様子を見る必要がある。顧客の興味を引き付け、喜ばせ、または驚かせる能力は長い間、同社の商売道具、つまり強みとなっている。最新の商品の販売も順調だった。iPhoneCだったか、商品名は忘れたが、それを好きな人々がいる。しかし、「わあ!」と感心する反応ではなかった。ある意味で、人々はアップルを、不公平に扱っている。アップルのブレイクスルーを見ると、同社は、毎年画期的な商品を導入していない。56年ごとに発売している。だから、私たち消費者はアップルに次の画期的な商品を出す時間を十分に与えていないといえる。



5.あなたの理論はブルーオーシャン戦略と両立可能ですか?

もちろん、両立可能だ。ブルーオーシャン戦略の考え方は、競争が存在せず、新しい領域を開拓できるところに進出することである。多くの競争が存在する、いわゆる「レッドオーシャン」では、企業は一時的な競争優位の世界にいると表現できる。つまり、ブルーオーシャン戦略と一時的な競争優位は、両立する。

 


6. いつ、次の本を出版する予定ですか。テーマは何ですか。

次の本の仮の題名は『Right Place, Right Time, Right Move』(直訳:  適所、適時)で、right placeの部分は、前に述べた「アリーナ」(競争の場、市場)の考え方を表している。共著者となっていく同僚Trish Gorman (トリッシュゴーマン)と積極的に執筆に取り組んでいる。2015年までに、執筆の大部分を終了することを目指していて、2015年の後半、または2016年明けに出版される予定である。

 
 

7.現時点で、日本で講演をしたり、研修を指導したりする具体的な計画はありますか。そうした計画がない場合、日本に招待されることに関心はありますか。

招待されたら日本をぜひ訪問したい。今後数か月の間、アジア諸国で講演をする計画がある。シンガポール、フィリピン、インドネシアを訪問する予定だ。過去に、顧客の希望によって、75分間の講演や数日間の研修を実施したことがある。喜んで日本に行きたい。
 

 

推薦図書
McGrath, R. G. (2013). "Transient Advantage." Harvard Business Review 91(6): 62-70.
 
McGrath, R. G. (2012). "How the Growth Outliers Do It." Harvard Business Review 90(1): 110-116.
 
McGrath, R. G. (2011). "Failing By Design." Harvard Business Review 89(4): 76-83.
 
Cliffe, S. (2011). "When Your Business Model Is in Trouble:  An Interview with Rita Gunther McGrath." Harvard Business Review 89: 96-98.