2015年2月25日水曜日

2015-02-28 - 南カリフォルニア大学マーシャル・スクール(経営大学院)ナサナエル・ファスト博士


 

 

南カリフォルニア大学マーシャル・スクール
(経営大学院)ナサナエル・ファスト博士
「権力、自信過剰が組織内に強い影響力を及ぼす」


スタンフォード大学博士(組織行動論)。研究分野は、集団や組織における権力と社会的地位の決定要因やその帰結、組織内のいじめ、文化の伝播に影響を与える心理学的なプロセスなど。著名学術誌で多数の論文を発表。ウォールストリートジャーナル、フォーブス、ニューヨークタイムズにも記事を寄稿。「世界のビジネススクールの40歳以下の最も優秀な研究者40人」(2014)に選出される。

 

1.組織内の権力の影響

これまで、あなたの最も顕著な研究は、組織内の権力(パワー)が判断と意思決定にどのような影響を与えるかということに焦点を当てている。この研究の概観を示してください。そもそも何がきっかけで、この研究分野を選択したのですか?


私の研究の多くは、権力の保有や権力の欠如が、個人の知覚、態度、意思決定をどのように変化させるかを理解することに焦点を当てている。特に、リーダーが誤った決定を行うとき、人々は好んで「権力は腐敗する」(power corrupts)という格言をしばしば指摘する。しかし、私は、もっと体系的に権力と行動との関係を理解したかった。そのため、私と私の同僚は、科学的手法を用いて、権力がそれを持つ人に与える様々な心理的な影響を研究してきた。その過程で、ある場合は、権力が順応効果をもつ可能性があり、他の場合は、不適応効果をもつ可能性があることを明らかにした。例えば、私が、同僚(Deb Gruenfeld、Niro Sivanathan、Adam Galinsky)と一緒に行った一連の研究において、権力は支配の幻想的な感覚を感じさせる傾向を強めることを解明した。状況が困難になるときに、(権力にともなう)この幻想は、個人に対して大胆に前進し続ける決意を与える意味で順応的である。しかし、正確性が要求されるときには、自分の能力の過大評価に繋がり、望ましくない結果を生み出す可能性もある。最近になって、私は、資源や結果に対する支配の形成という視点から、権力が、自己が知覚した能力や社会的地位のような要素とどのように相互作用しながら行動に影響しているかを研究している。

私が覚えている限り、私は、権力にずっと関心を持ってきた。権力への関心について、私の最初の記憶の一つは、私が幼いところに過ごしたザイール(現在のコンゴ民主共和国)にさかのぼる。そこで、父はボランティア医師をしていた。私の家族は、独裁者モブツ・セセ・セコ(Mobutu Sese Seko)が統治していたときにそこに住んでいた。そこでは、(普通に)指導者が自分の方針に反対する人に対して暴力を振るい、ましてやその人々を殺害するという考えが存在していた。私はそうした考えに不安を覚えた。そのとき以来、私は、指導者が権力を悪用するのか、あるいは他人に役立つように使うのかを左右する要素を解明する研究に魅了されている。

 

2.優秀教員賞の資質

あなたは、研究で認められることに加え、何回か優秀教員賞を受賞したこともあります。あなたのどのような資質が学生指導における成功の原因だと思いますか。


たぶん、学生たちは、私が、彼らの個人的な成長とプロフェショナルとしての成長を気に掛けていることを知っていることがもっとも大きい理由だと思う。また、私は、新しいことを学ぶのが好きだし、できる限り、私の学習に対する情熱を教室で学生に伝えるように努力している。

 

3.組織における「いじめ」対策

「いじめ」は歴史的に日本の公教育制度の問題になっています。その「いじめ」によって、複数の被害者が自殺するまでにいたっています。あなたの研究にもとづき、日本における「いじめ」を根絶するために、校長や政策立案者にどのようなアドバイスをしますか?もしも可能な場合、被害者が身を守るために、何ができますか。社内で「いじめ」にあっている被害者は、窮地を改善するために何ができますか?


「いじめ」は、重大で、複雑な問題である。ひとつの救いは、「いじめ」に対する戦いで道を開いている「Workplace Bullying Institute」 (職場のいじめ研究機関)のような組織がそれに正式な名前を与えたことである。「いじめ」に対して、公式な名称を付けたことにより、それが、被害者も政策立案者もともに解決しなくてはならない問題として特定できるものとなる。「いじめ」に直面している人々ができるもう一つのことは、その状況から暫く距離を置き、考えをまとめ、その対応戦略を検討することだ。「Workplace Bullying Institute」のような組織が「いじめ」への対応策を検討したい被害者にとって、有益な情報源となる。それから問題を適任者たちのところに持ち込み、個人的な問題としてではなく、むしろ、組織の利害に係わる課題として、組み立てることが有益である。また、個人としてではなく、グループ(集団)として、その対策を考えることが有効だ。上層部は、「いじめ」の被害者に責任を押し付け、そうした個人が過度に敏感なだけだと、簡単に判断する誘惑に負けてしまう。しかし、「いじめ」についての報告が組織の健全性に関心を抱いている従業員グループから伝えられたら、上層部はそのような安易な応対はできなくなる。他方、政策立案者が実施できる対応策としては、まず、「いじめ」に公式の名称を付けて、それを国民全体に知らせることである。

 

4.権力と自信過剰

2009年3月10日付けのタイム誌の記事に紹介された、権力が生み出す自己管理の能力にともなう幻想に関するあなたの研究に興味をもちました。あなたと共著者デボラ・グルエンフェルド(Deborah Gruenfeld)のコメントを引用すると、「権力は、自信過剰な意思決定をさせるという点で、人間を現実から疎くさせる可能性がある」。どのような状況下でこの結果が起こりうると考えますか。権力者が自信過剰な決定をする確率を減らすために、企業は何ができますか。権力者自身は何をしたらよいでしょうか。

 
繰り返し成功を体験する。また、リーダーの権力に挑戦したくない人たちに囲まれる。こうしたいくつかの要素が支配の幻想的感覚を強化しうると考える。私たちは、失敗または対立を経験しなければ、特定の決定の賛否両論を熟考する必要性を感じなくなってしまう。そのため、企業は、権力者に対して熟考を促進するような環境を醸成しなければならない。権力をもった上層部の人間も、自分自身で、次のような対策をとれる。権力者は、支配の幻想的な感覚を体験する傾向が強いことを意識する。また、自分の弱点を自覚する。そして権力者自身が、自分に対して率直に意見を述べる人たちの中に身を置くことだ。

 

5.起業家と自信過剰

自信過剰な意思決定が、利益をもたらす状況はあると思いますか。例えば、起業家がその恩恵を受け、他人が回避するリスクを取る傾向が強くなると考えますか。

 
確かにある。起業家として成功するために、リスクを取る必要があり、自信がその重要な一部を構成する。これに関連して、Cameron Anderson と Sebastien Brionは自信過剰がグループ(集団)における社会的地位を高めるのに、役立つという研究結果を発表した。要するに、自信過剰がいつも悪い訳でない。

 

6.人気が持続する理由

そもそも人間は才能があれば、才能が衰えた後でも長い間、人気を保つことができる。その理由は、人間が共通の関心課題を探し、関心を共有したいという欲求をもつことにある。そう提唱するあなたの研究を読んだときに、初めのうち、半信半疑でした。この研究について説明してください。その結論は、西洋の文化と完全に異なる日本にも当てはまると思いますか。これらの研究結果は、ビジネスにおいてどのような示唆を与えてくれますか。

 
私たちは、つぎのような単純な仮説を証明したいと考えた。人間には共通話題を話し合うことにより、絆を築く心理的な傾向がある。そうした心理的傾向が、有力な考えや有名人が、純粋のメリットだけで「説明できる」より長い間、大衆文化のなかに生き残る社会学的な発見の基礎になっているという仮説である。私たちは、成績の影響を調整したうえで、野球選手が、前の数年間、メディアに自分の名前が出た場合は、オールスター・ゲームの投票をより多く獲得し受賞数も増えることを発見した。人々が、これらの選手についてオンライン・チャットルームで話し合う傾向がこうした効果を生み出す仕組みだった。面白いことに、異なったパターンを見せた唯一の集団は、野球に詳しい「専門家たち」であった。彼らが、もっと面白い、成績のよい選手について語る傾向が強かった。しかし、そうした傾向も、話している相手が同じ「専門家」であることを知っていた時だけに見出された。結論から言えば、有力な考えと有名人は、単に私たちに他人と絆を築く方法を提供するために存在するのかもしれない。集団主義的文化と個人主義的文化の中で、この現象の潜在的な違いを検討する研究は面白いだろう。そうした研究は、私たちはまだ行っていない。

 

7.組織内の批判は伝染する。それを防ぐには?

あなたが、実験社会心理学の学術誌「The Journal of Experimental Social Psychology」で発表した研究は、人を責めることが組織内で伝染することを示唆しています。こうした悪影響を阻止するために、2010年の HBR(ハーバード・ビジネス・レビュー)のブログで掲載された記事で、あなたは、従業員の誤りに報酬を与えることを提案しています。こういった報酬制度を導入している会社の例を教えてください。これらの制度の有利なところは何ですか。ビジネスに対するこうした報酬制度の影響をどのように計測したのですか。


もちろん、正しい間違いを奨励することが大切だ。ここでいう正しい間違いとは、将来の業績を改善する学習を促す間違いのことを意味する。失敗に対して、新種の取り組み方を採用している企業が数社ある。インドのタタ・グループは、毎年、最高の失敗に対して賞を与えている。イントゥイット(Intuit)、 イーライリリー(Eli Lilly )、P&Gの各企業は、失敗は会社の運営上不可欠な部分だと見ている。この方法の利点は、心理的な安心感を生み出すことである。ハーバード大学経営大学院のエイミー・エドモンドソン(Amy Edmondson)が行った広範囲の研究結果が示すように、失敗に対するこうした態度は全体的な業績の向上につながっている。

 

8.海外経験と研究領域の関係は?

あなたは、小さい頃、北米、欧州、アフリカに住んだことがあると聞きます。なぜ、幼いころ、三つの違う大陸に住むことができたのですか。欧州とアフリカの経験を教えてください。それらの人生経験があなたの研究にどのような影響を与えたのかをお話しください。
 
医者である私の父は、他人を助けるだけでなく、旅行も好きだった。そのため、彼は、「Doctors Without Borders 」(国境なき医師団)のような組織に志願した。ベルギーでは授業がフランス語で行われていた学校に通い、コンゴでは、私と私の兄弟たちは村で唯一の白人であった。これらの経験から、わたしは次のようなことを真剣に学ばざるを得なかった。つまり、人間の行動を導く根本的な基準(ノーム)と原則を理解しようと、個人と集団について学んだ。その経験により、私は、人間の行動の土台を解明しようとする研究への終生の関心をもつようになった。海外で暮らしたことは良い経験であるし、今でもその機会に感謝している。

 

9.今後の目標

あなたはまだ若い。学者としてのあなたのキャリアはこの先長い。どのような目標を持っていますか。本を執筆する予定はありますか。もしあれば、詳細を説明してください。


現在、私は研究と教育の両方をとても満喫している。確かに、今後数年間で、この両方の成果を本にまとめたいと思っている。それまでの間、私は、権力、影響力、指導力(リーダーシップ)に関する研究の最新の結果を定期的に私のホームページで公表していきたいと思っている。下記のサイトを自由に参照されたい。

2015年1月26日月曜日

2015-01-26 - ペンシルベニア大学ウォートンスクール(経営大学院)准教授マイケル・シンキンソン博士





マイケル・シンキンソン博士

計量経済学モデルが戦略の武器となる
 

ペンシルベニア大学ウォートンスクール(経営大学院)准教授。担当は、ビジネス経済学と公共政策(応用ミクロ経済学と産業組織論)。ハーバード大学/ハーバード・ビジネス・スクール博士(ビジネス経済学)。研究分野は、新聞産業、技術、電気通信産業。「40歳以下のビジネス・スクール(経営大学院)ベスト教授40人」の中にランキングされている。(2014年5月15日インタビュー実施)

 

1 世の中のすべてのことを情報として取り扱うメディアの影響力

あなたは、紙媒体の新聞がもつ政治への影響に関する研究をいくつか行ってきました。なぜ、この分野に関心を持っているのですか。あなたが、計量経済分析を適用した、他の研究分野はありますか。米国連邦政府のどのような政策分野において、もっと深く徹底した計量経済分析から恩恵を得ることができると考えますか。

 

(1)メディアは意思決定に必要な情報を提供する

あらゆる分野に及ぶという理由で、新聞紙とメディア媒体に非常に関心を持っている。メディアは情報を扱う。情報欠如や偏った情報にもとづけば、どのような政府、企業、個人も正しい決定ができない。したがって、私はメディアが(世の中の)すべての中心となっていると理解した。たとえば、私とある共著者は、政治に対するメディアの影響を検討した。具体的には、いかに新聞社が競争し合うか、どのように市場で代表する視点の類型を選別するかを研究したのである。くわえて、政治的な帰結(選挙結果)に対する新聞紙の影響力を探った。例を示せば、実際にある市場では、人々が新聞を読めば読むほど、政治過程に参加する人数が実際に増えるという結果を確認できた。仮に民主主義が良いシステムだと思うなら、この点が重要なポイントになる。つまり、価値のある情報を提供する点で、ニュース媒体が重要だということがすぐ分かる。メディアは魅力に富んでいると私は思う。メディアはすべてを対象にしている。このように、メディアは、私のひとつの関心領域であり、長期的に研究を行ってきた、


(2)非価格競争—電気通信、製薬、広告

他の分野でも研究を行った。私の研究分野は、技術、メディア、電気通信における非価格競争に関するものだと表現してもよいだろう。私が「非価格競争」という専門用語を使うことで、企業は価格を正しく設定すると私が仮定していることを理解できるだろう。それは、市場に均衡をもたらす価格のことだ。商品の一群が市場に出たら、そうした均衡化が必ず起こる。それを前提にした適切な質問をすれば、「どの商品の組み合わせが市場に出るか」になる。新聞社の例を考えれば、おそらくどのような視点(見解)を代表したいかということになる。つまり、その新聞の特徴として何を選択するかということだ。


電気通信市場に関しては、独占契約に関する研究を私は行った。無線通信会社(携帯電話会社)はそれぞれ異なった携帯電話機メーカーと独占契約を結ぶ。携帯電話メーカーは特定の通信会社を通して商品を提供している。これは、非価格競争の一種である。その場合、市場では、競争を合理化する水準で価格が設定される。ここで問題となるのが、なぜあるメーカーは通信会社1社のみしか利用しないのか、ということである。たとえば、アップル社はなぜ他の会社を通して同社の携帯電話機を提供しないのか。アップルがアメリカの市場でiPhoneを売り出したとき、AT&T社からしか手に入れられなかった。日本も同様である。長い間、ソフトバンクがiPhoneの独占的販売会社であった。これも非価格競争の一種である。

 
(3)製薬業界

最近の研究でもう一つ重要な領域が広告である。これも非価格競争の重要な類型である。アメリカでは処方箋薬がテレビで広告されている。ほとんどの国では、そうした広告は許されていない。つまり、処方箋薬のテレビ広告はとてもアメリカ的である。これも非価格競争の一種だ。企業は、テレビ広告を通じて情報を直接消費者に伝えることにより競争し合っている。私は非価格競争の効果を理解したいと思った。これは、公共政策の分析の点でとても重大な研究領域である。私たちは、これらの広告が経済学で「正の外部性」と呼ばれる好ましい波及効果を生むことを確認した。この広告を見る消費者が医師の診察を受け、自分の健康上の問題について相談する。それによって、広告を放送した製薬会社が必ずしも意図したわけではない恩恵を受ける。

 
公共政策のどのよう分野で経済分析が役立つか、というあなたの質問に関しては、この正の外部性の分野が大きなひとつになると私は答える。私が具体的に言いたいのは、企業が行っている活動の多くが好ましい波及効果を引き起こすということである。社会は、企業がもっとこれをするように、促すべきである。この分野は定量化しにくいが、公共政策へ経済分析を適用する研究にとって優れた機会だと考える。たとえば、アメリカの連邦政府は、研究開発の税額控除の有効期限を延ばすかどうか、現在、論争している最中である。長い間、経済学者は、研究開発が社会に好ましい波及効果を及ぼすと信じているので、この税額控除を恒常的なものにすべきだと主張している。この分野は容易に政治問題化されてしまう傾向がある。しかし、経済学者としては、好ましいと考えられる波及効果を引き起こすための適切な補助金水準はどのくらいかといった研究を提供できる。

 

2 iPhoneの独占販売契約

あなたは、スマートフォンのデータを使って独占契約における価格決定と市場参入動機を研究しました。その概観を紹介してください。研究の動機は何だったのですか。この研究の知見は、どの程度他の産業に適用できますか。また、どの程度、日本のような他の国に当てはめることは可能ですか?


(1)iPhoneとAT&T

前述のとおり、2007年にアップル社がiPhoneを売り出したときに、AT&T が独占販売業者だった。私は、個人的にiPhoneが欲しかった。でも、ベライゾン(Verizon)社が私の携帯電話会社であった。つまり、iPhoneを手に入れるために、携帯電話会社を換えなくてはならなかった。AT&Tのサービスがひどく、私の研究室で携帯電話が受信できなかった。音声の質もひどかった。そのとき、「これは道理にかなっていない」と考えた。第1に、なぜ、アップル社がiPhoneをただ1社の携帯電話会社を通して提供しているのか。第2に、なぜ、アップル社は信頼できる無線信号すら提供しない、つまり音声の質がよくない通信会社、つまりAT&Tを選んだのか。(AT&Tの無線の状態が悪いために)私のiPhoneは、(事実上)高い留守番電話の状態になっていた。私のiPhoneはメッセージを受信するだけだった。


この苛立ちによって、私は、アップル社がAT&Tと独占販売契約を結んだ背景にある理論を考える刺激を受け、それが面白い結果につながった。すべての通信会社がすべてのメーカーの携帯電話機を販売したならば、唯一の差別化ポイントは、それぞれの携帯電話会社が提供するサービスということになる。それは消費者にとって好ましい。なぜなら、完全競争が生まれるからだ。企業が独占契約を持てば、明らかに少し価格を値上げられる。なぜなら、同種の携帯電話機を提供している他社の「サービスパッケージ」(商品とサービスの組み合わせ)と競争しているわけではないからだ。その企業は独占契約下のiPhoneの価格を上げられるだけではなく、二次的な効果として、ブラックベリーも含めて、他のすべての携帯電話会社も自社の携帯電話の価格が上げられるようになる。この場合、産業全体が恩恵を受けることになる。私の研究は、この効果がとても大きくなる可能性があることを示した。この効果がどの程度大きいかを見せるために、私は携帯電話会社からデータを収集した。

 

(2)iPhone独占契約と2番手の通信会社

この研究を進めるなかで、もう一つの発見をした。どの携帯電話会社が、独占契約を結ぶために、より多くの対価を支払う意志が強いかということが分かった。なぜ、一番大きいベライゾンではなく、AT&Tがより多くの対価を支払ったのか。理論を考え抜けば、産業内の一番大きな企業が独占契約を締結すれば、2番目に大きい会社がより多くの損失を受けることが理解できる。アメリカでは、ベライゾンは非常に強力なネットワークをもっている。したがって、ベライゾン社はiPhoneの(独占)契約を締結しなくても、多くを失わないだろう。一方、AT&Tのネットワークは相対的に弱いので、仮に最大手のベライゾンがiPhoneを提供するようになれば、AT&Tは多くを失ってしまう。このため、AT&Tが多額の対価を支払う覚悟をしたのである。


類似的に日本を比較すれば、NTTドコモが最大の携帯電話会社だった。そして、ソフトバンクがボーダフォンの携帯電話ネットワークを買収した。ある意味で、ソフトバンクは反乱の会社だった。仮にiPhoneがNTTの独占契約になったら、ソフトバンクは大きなトラブルに陥っていただろう。つまり、ソフトバンクはNTTドコモがiPhoneの独占契約をもったら、競争する方法はもうなかっただろう。だから、ソフトバンクは、iPhoneの独占契約を手に入れるために、多額の対価を支払う覚悟ができた。そして、これによりソフトバンクは、NTTドコモと差別化する手段を手に入れた。世界のマーケットを調査すれば、アップル社が、ほとんどすべての場合で、同じ戦略を採用したことが分かる。中国では、アップル社は、2番目に大きい電話会社と提携しiPhoneを売り出した。他の国でも、アップル社は2番目の企業を通じてiPhoneを販売した。なぜなら、2番目に大きい企業がより多額の対価を支払う意志があったからである。

 
私は、通信市場の文脈でこの効果を研究した。他の経済学者は他の産業で、この効果を研究している。同じ問題がビデオゲームシステムに当てはまる。この産業では、問題はより複雑になる。というのは、Xboxを購入する際に、10個の異なるゲームを一緒に購入するかもしれないからだ。この場合、比率が違う。携帯電話メーカーと携帯電話通信会社の場合とは異なり、もはや一対一の関係ではない。複数の研究者たちが、異なったゲーム装置に関して、ビデオゲームの独占販売契約を研究した。ネットフリックス(Netflix)、フールー(Hulu)、アマゾンの各社が、現在、独占販売のコンテンツにどのように対応しているかを考えると、同じことがいえる。コンテンツを独占的に提供することで、ネットフリックス社は、競合他社と差別化を図っている。企業のこうした動きは、実際、市場の力学に変化をもたらした。

 

3 アベノミクスに対するプラスの評価

あなたはご存知だと思いますが、日本の安倍晋三首相はアベノミクスを旗印にして、現在、抜本的なマクロ経済改革を導入しています。ミクロ経済に関するあなたの専門知識に基づいて、既に実施されている改革の効果をさらに強化するために、移動体通信と家庭用電化製品のような特定の産業に対してどのような提案をしますか。

 
あらかじめ国際貿易とマクロ経済は私の得意分野ではないということを断っておきたい。安倍首相の政策が、企業に対して投資を行い近代化する誘因になった。これは良いことだと思う。現実的には、家庭用電化製品や電子通信産業の市場はグローバルになっている。最終的には、市場の勝者は最も効率的で、最も高いクオリティーの製品を提供するメーカーになる。あなた方の他の質問の一つが保護貿易政策、政府救済措置などについてだったと思う。企業は競争力をもたなければならない。設備投資を行う誘因を創り出せば長期的な効果がある。だから、そうした政策は企業に好影響を与えると信じる。企業は、正しい誘引を与えられなければならない。そうなれば、企業は、不況を耐え抜き、これから10年、20年先にも確実に存続できるようになる。 
 
 
 
4 インターネットと紙媒体新聞の将来


 
インターネット技術が進化するにつれて、伝統的な新聞社や雑誌出版社が存続に向け悪戦苦闘しています。名門ワシントンポスト紙がアマゾン創業者のジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)に買収されたことはご存知だと思います。技術が引き起こしている混乱のなかで現在の紙媒体の企業が生き残るためにあなたはどのような方策を提案しますか。


(1)「全国紙化」が生き残り策のひとつ

現実的には、これらの企業は現在の形で存続しないかもしれない。歴史的に、印刷媒体は地域的に保護されてきた。一般的には、自分の市場のなかで孤立していた。もちろん、オハイオ州クリーブランド市の新聞なら、(潜在的に)その周辺の他の新聞紙からの競争に曝されていた。状況が変化した最初の兆しは有線テレビのニュース・チャンネルであった。突然、現地の視聴者の好みに合わせていたクリーブランドの新聞とテレビ放送局が、全国のニュースを放送していた有線テレビと競争しなくてはならなくなった。現地の視聴者は、より自分の好みに合ったチャンネルと放送局に乗り換えるようになった。

 
インターネットはこうした傾向を徹底化した。現在、あらゆる視点のメディアにアクセスすることができる。あなたの個人の好みや趣味に関係なく、それを満たすブログまたは他の情報源が見つけられる。その結果、現在、特定の地域市場の嗜好に合わせることが難しくなっている。クリーブランド市の様々な市民が異なるニュース内容を求めている。特定の嗜好に合わせるブログや他のオンライン媒体が、その好みを共有するすべての地域市場の視聴者をすくいあげている。これらの媒体が視聴者の基盤をまとめあげ、ほとんどの印刷媒体を排除していく。ニューヨーク・タイムズ紙やウォールストリート・ジャーナル紙のような一部の成功した新聞のみが、この環境下で、次のような2つの手法で成功を収めている。第1に、地域的な限界を克服するために全国紙になる。そして、第2に、高い質の記事を提供する。こうした新聞は、質の高い記事を提供することで、プレミアム(割増)料金の支払いを惜しまない上位顧客を引き付けることが可能となっている。この戦略は、オハイオ州クリーブランド市にある地域新聞には有効ではない。

 

(2)オンライン化と「超」地域化

今現在起きていることを見れば、選択肢がいくつか考えられる。新聞紙のなかにはオンライン媒体になったものもある。たとえば、シアトルポストインテリジェンサー(The Seattle Post-Intelligencer)紙はオンラインメディアになるために、印刷部門を閉鎖した。その判断は良さそうに思える。だが、それにともないニュース編集室もかなり縮小しなければならなかった。そのような方策を実施すると、根本的に異なるメディアになってしまい、消費者にとって都合の悪いものになる可能性がある。新聞記者は、不祥事を暴露し、公共財を提供するので、編集室の縮小は必ずしも好ましいものではない。一方で、ビジネス・モデルの観点からは、こうした縮小は数少ない選択肢の一つである。従来のビジネス・モデルはもはや通用しない。近い将来を見据えると、多くの伝統的な新聞社は生き残れないかもしれない。

 
オンライン化に代わる他の唯一の選択肢は、サンディエゴ新聞紙が目指しているような「超地域化」を選択する(集中的に地域の新聞紙になる)ことである。同新聞は記者を近所に派遣し、(日常の)あらゆる出来事を取材させている。このように、超地域化された内容はもうひとつの戦略である。サンディエゴ新聞がこうした戦略を試しているが、彼らが成功するかどうかは分からない。しかし、私たちは、必ず、新規のビジネス・モデルの登場を目撃するだろう。なぜなら、つい10年前のビジネス・モデルももはや通用しなくなってきているからだ。

 

5 バーテンダーと教授

「私がビジネス・スクールの教授にならなかったならば、起業家になっていた」とあなたはかつて語ったそうですね。起業家活動のどのような点にあなたは関心をもっているのですか。この分野に関する研究を行ったことはありますか。大学院生のときに、バーテンダーとして働いたアルバイト経験を通じて、起業家活動について何を学びましたか。

 
(1)起業家と教授の共通点

最初に、なぜ私が起業家活動に関心を持っているかというあなたの質問に答えたい。起業家活動と教授としての学術的な仕事について私が好むのは、自分の興味を追求する自由があることだ。よかれあしかれ、自分が自分自身の上司である。自分の失敗も、自分の成功も自分のものである。私は自分がやりたいことを追求する自由や責任が好きだ。私のような人間にとって、学究的な生活が理想である。例えば、なぜベライゾン社からiPhoneが購入できないのか。こうした疑問が面白いと思えば、それを検討し研究できる。私を学究的な生活に魅了したこの特徴が起業家活動にも当てはまる。その意味で、実際、この2つ分野は関連していると思う。学界では、あなたが起業家なのである。研究者として自分のブランドを持ち、自分の成果に基づいて評価されるわけである。成果を出さなければ、学者としての終身在職権が手に入らない。学究的な生活は、(一般のビジネスよりも)少し大きなセーフティーネット(安全網)を持つ起業家になることにたとえることが可能だ。こうした学界との共通点が、私が起業家活動に魅了される理由だと思う。

 

(2)バーテンダーの体験で将来の夢を発見

次に、私がバーテンダーとして何を学んだかというあなたの質問について答えたい。そのひとつが、最前線にいることにより、事業運営の問題や挑戦に関して、直接的な経験を豊富に積んだことである。市場や産業を把握する素晴らしい方法であったし、問題の解決法を学ぶ良い機会でもあった。バーテンダーとして、あらゆる種類の問題を目撃した。オーナー(持ち主)やマネージャーが関わらなかったので、わたしはいつも問題を解決しなくてはならなかった。起業家として、本格的に成功したいなら、誰もまだ発見していない問題を発掘し解決すべきである。それが、私がバーテンダーとして学んだ1つ目の教訓である。2番目の教訓は、自分の残りの人生で、ずっとバーテンダーでいたくないことも分かった。この経験は、私が終生バーテンダーを続けなくてもいいように、より高い教育を受けるために努力を継続する動機付けになった。
 
 
 
6 知識の獲得のための努力

あなたの学生によると、あなたは、学生の質問に詳細に答えられないことは決してないと聞きます。年齢がまだ若いにもかかわらず、いかにしてそんなに幅広い知識を習得できたのですか。情報過多に対する適切な対応と、有益な知識の蓄積について、学者と会社員にどのような提案をされますか。

 
世界に関して強い好奇心をもつ人間は学究的生活や教職に惹きつけられる傾向がある。そうした人間は学習が大好きである。これらの人間にとって、学習は生涯をかけて追求するものとなる。私がこのような好奇心を持っていると、学生たちが感じていることを嬉しく思う。なぜなら、それが私の希望だからだ。

知識を維持することは、課題である。情報が氾濫しているため、私も作業を進めることが困難となるときがある。恒常的に、私のところへ電子メールが殺到する。自分の自由になる日をとっておくことが解決策だった。打ち合わせをしない。その日は、メールに返信しないし、頻繁に受信メールも確認しない。その代わりに、自分の研究に集中する。ホワイトボードのところに行き、考えに集中する。電話を手放すことを不自然に感じる人間もいる。しかし、特に、難しく、複雑な問題を解決したければ、そうした手法が重要であると私は思う。5分~10分ごとに、何かに気を取られてはいけない。

私は早起きでもある。授業を教えている学期中、普段は5時半には起きている。最初の授業が9時からなので、その前に、数時間の自由がある。朝早いから、誰も電子メールを送信してこないし、ドアもノックしない。しかも、誰も電話をかけてこないのである。私は静寂のなかで研究に集中できる。講義を周到に準備することも確認できる。このような朝は、誰も私と連絡を取ろうとしないので、最も好ましい作業時間となっている。1日のうち、そして1週間のなかで、スケジュールに圧倒されずに思考し問題を解決する時間を私は必要とする。 
 
 
 
7 「教える」という兆戦

あなたは、「Poets & Quants」誌の「ビジネス・スクールの40歳以下のベスト教授40人」のリストに入りました。その特集記事で、あなたは、自分にとって教育が終生の関心事であると語りました。教育のどのような点が楽しいですか。学生たちから何を学びましたか。教育について、どのような点が厄介で楽しくないと思いますか。

 

(1)学生たちは高いお金を払っている「顧客」

私は、勤勉に勉強に取り組んでいる聡明な学生と意見交換することを楽しく思う。ウォートン・スクールでは、3クラスで約200人の学生の授業を担当している。すべての学生が鋭くて、手を抜くことなどまったく許されない。ある課題を本格的に教えるために、まず、自分が完全にマスターする必要がある。広範囲の話題について、なぜ私が詳しい知識もっているか、というあなたの前に質問に戻ろう。聡明な人に質問されるときでも、私が正解を答えるくらいに、ある課題について詳しく学ぶのが好きだ。自分の答えが正しいと確信する。さらに、その答えを完璧に説明できる。その水準まで、ある課題を極めることにワクワクする。そうしたチャレンジが大好きである。学生たちが、私に妥協しない高い基準を保たせている。授業料を支払う「顧客」で、良い商品を要求するのである。彼らの存在があるから、私は課題を知り尽くし、その知識を彼らに提供できるのだ。


(2)私から学ぶ学生から、私自身が学んでいる

私は学生たちからたくさんのことを学んでいる。特に、学生は多様なので、彼らが現実の世界や職場で直面している問題を知ることは有意義だ。ある学生は軍隊に携わり、他の学生は様々な業界で働いた経験をもつ。現在、現役のプロスポーツ選手やその経験者も学生のなかにいる。学生たちは幅広く、異なる活動に関与している。学生たちが、自分の経験に経済原則を適用する話を聞くのは、素晴らしいことだと思っている。経済理論の適用について、学生から、次のような電子メールを頻繁に受信している。「あなたが説明したゲーム理論が適用できる素晴らしいサッカーの試合を観戦した。ほら、見て」。こうした学生たちの経験は将来の授業に生かすことができる。なぜなら、将来の授業でこれらの例を利用することができるからだ。私は、教育全体のプロセスを好循環と見ている。つまり、私から学ぶ学生から、私自身も学んでいるわけである。

 
学生の生い立ちは様々だ。だからこそ、教えることが挑戦でもある。ある学生は、大学(学部)のとき、経済学を専攻した。他の学生はこれまで経済学を勉強したことがない。にもかかわらず、私は、すべての学生にとって、面白くて、刺激的な講義を組み合わせなくてはならない。この要求に応えることは挑戦である。でも、(部分的に)学生の好みが異なるから、時々、心配にもなる。グローバルな事例を知りたい学生もいるし、反対に、アメリカの事例の方がよいと思う学生もいる。ある学生は厳格な経済理論や数学を学びたがるが、全然必要としない学生もいる。これらの異なった要求をバランスをとって満たし、くわえて、面白くて、刺激的な講義を設計することはとても難しい。 
 
 
 
8 本の出版
 
 多くの学者は自分の研究成果をもっと広い範囲の読者に伝えるために、本を執筆します。近いうちに、あなたは本を出版する予定がありますか。ある場合は、その詳細を紹介してください。

正直にいえば、私にはまず完全に達成しなくてはならない十年先までの研究計画がある。私の研究生活の現時点では、本の執筆に取り掛かる意味はまったくない。付け加えれば、政府や産業にインパクトを与えると思った考え、つまり書く価値のある考えがあると思ったときに、本を書きたいと考えている。躍起になって書籍を執筆する人を見かけたことがある。でも、私は、政府のよりよい政策決定を支援することにより貢献できると思う場合にしか、出版したくはない。書籍の出版は私の優先課題の中では、現在、優先順位は高くない。しかし、今から10年後、同じことを聞かれれば、異なる答えをするかもしれない。  
 
9 行動経済学

行動経済学について、どのように評価していますか。自分の研究に、どの程度心理学的理論を採用したいと考えていますか。

過去10年間ぐらいわたって、行動経済学の人気は高まっているし、様々な進展がある。研究分野として、行動経済学は面白いと私は思う。問題はモデルの欠如である。まだ、質の高いモデル、つまり、全ての個人的な違いを統合した包括的理論は存在しない。モデルが欠如しているため、研究の観点から行動経済学を利用することに私はフラストレーションを感じる。よく冗談で、それが、私が企業を研究することを好む理由だという。企業はもっと合理的である。その結果、人間を対象とするより、研究しやすい。

しかし、行動経済学の課題はマネージャーにとって大事である。私の学生たちはしばしば次のようなコメントをする。「私という人間は完全に合理的でないかもしれないなかで、なぜ、その選択をするのか」。しかし、私は、ひとつの講義の半分しか、行動経済学の説明に割いていない。むしろ、私は時間の大分部を費やし、企業の合理的で経済的な行動を説明する。行動経済学が重要で、有益で、しかも面白いと思うが、私の専門分野ではない。近い将来、他の若く優秀な研究者が行動経済学に関する包括理論を打ち出すことを願っている。行動経済学は、将来の研究のためには素晴らしい道具箱となるだろう。現段階では、行動経済学の結論は、「我々人間は完全に合理的ではない」と主張しているように思える。