President
Shai Reshef
シャイ・レシェフ
University of the People(人民大学)創業者兼学長。同大学は、世界初の授業料無料のオンライン大学として脚光を浴びている。彼のTEDトークでのスピーチ動画は200万人以上のアクセスを記録し世界的に注目されている。テルアビブ大学卒。ミシガン州立大学大学院修了(中国政治専攻)。彼は、20年以上の国際教育ビジネス業界での輝かしい経歴をもつ。米カリフォルニア州パサディナ在住。
1. 個人的なプロフィール、学歴、職歴などを簡単に教えてください。大学院で中国政治を学ばれていますが、その動機は何だったのですか。アジアの政治とあなたの教育への情熱はどのように関係しているのですか。
私は、ミシガン州立大学の中国政治・歴史プログラムで、アジア文化について学んだ。こうした学問が、現在の私の仕事に直接関係しているかどうか定かではない。しかし、中国、特に近代中国の歴史を学ぶことを通じて、人々の行動と努力がどのように物事を変えるのか、強く意識することにつながった。
私は、営利目的の教育業界で20年働いた。他の多くの成果にくわえて、ヨーロッパで最初のオンライン大学を設立した。そのとき、オンライン学習がどのくらいパワフルなものなのかを目撃した。世界中から生徒が参加した。彼らは、家にいながら勉強できた。仕事を続けながら、レベルの高いヨーロッパの教育を受けることができた。同時に、オンラインで学位を取得することは、多くの人たちにとって「希望的な期待」以外の何ものでもないということも悟った。なぜなら、多くの人々にとって、そうしたオンラインプログラムの授業料は高く、それを負担する余裕などなかったからだ。
最終的に、私はその事業を売却し、半分引退生活に入った。直後に、やはり仕事を続けたいと思った。しかし、今までと同じような仕事を続けようとは考えなかった。私は財産もあり恵まれている。したがって、今度は社会にそれを還元するときだ。それを自分が得意な教育の分野で行いたい。教育業界については知り尽くしている。でも、それ以上に重要なことは、人を教育するとき、あなたはその個人の人生を変えることができる。そして、最終的に、人を通じて世界を変えることができる。世界に対して、何かのインパクトを与えたいと思った。そして、それが可能になるのは、教育を通じてのみだと考えた。
周りを見渡すと、私が開発したオンラインプログラムの費用を高くしていたすべての資源が、現在無料で利用できることに気がついた。オープンソースの技術、無料のオンライン資源、そして、人々が情報を共有しあったり、教え合ったあり、情報を公開し合ったりするインターネットの文化。この時点で、私にとって必要なことは、これらの資源をまとめることだと気づいた。その結果が、「The
University of the People」(以下、UoPeopleという)だ。
2. 高等教育に対して普遍的なアクセスを提供するというアイデアをどのように発送したのですか。世界は、地球温暖化から飢餓、環境汚染にまでおよぶ多くの問題を抱えていますが、あなたはどうして特に教育問題に関心を持っているのですか。
先ほど述べたように、人々に教育を与えれば、彼・彼女らの人生だけでなく、世界を変えることができる。それが、私が教育に関心を持つ第一の理由である。そして、その分野は私が一番よく知っている分野でもあった。
3. あなたは2009年1月にUoPeople(直訳:人民大学)をスタートしました。最初の組織はどのようなものでしたか。それ以降、どのように組織は発展しましたか。これから、5年後の姿をどのように予想しますか。より具体的にいえば、どのような指標で成功の程度を評価しますか?
UoPeopleのアイデアは、世界における教育問題に対して真剣に考慮したなかから生まれた。同時に、授業料が無料のオンラインの大学を作り出すために必要な資源が現在利用可能であると自覚したことにも由来する。ドイツのミュンヘンの「ヴェルデ」(Verde)という名称の会議で私はこの大学の創立を発表した。そのとき、私のチームには3人のメンバーが参加していた。ニューヨーク・タイムズ紙はその発表の翌日、UoPeopleの関する記事を掲載した。それに反応して、私のところに何百人もの人々から電子メールが寄せられた。電子メールをくれた人々のなかには、支援を希望する大学教授たちも含まれていた。UoPeopleは、こうした人々を、コース(授業)やインフラの構築のために役員会に受け入れてスタートした。私たちは、当大学の内容や登録方法をPRするためにウェッブサイトを立ち上げた。また、実際に学生を指導するためのポータルサイトも別途整備した。この段階で、世界中の人々がUoPeopleのプロジェクトに関わってくれた。その結果、2009年6月には、学生入学手続きを開始し、同年9月にはオンラインの授業をスタートした。そこにいたるまで、UoPeopleの創立から9ヶ月しか経過していなかった。大学スタートまでのこうした業務はボランティアによって遂行された。
現在、大学は、少人数の幹部(有給)のもと、3,000名のボランティアによって運営されている。私と同様に総長は無給である。副総長は有給のスタッフだ。学部長はボランティアで、学務を担当する副総長は有給の職員だ。同様に、財務部長は有給だが、CFO(最高財務責任者)はボランティアだ。当大学は、次の2つの理由で、こうした組織を組成している。当大学は多くのボランティアの人々に依存しているため、その人たちの時間を効率的に活用したいという希望をもっている。大学の多くの教授は「お役所仕事」に対応するために多大な時間を浪費している。そのため、当大学は、有給のスタッフを活用して、教授たちの負担を取り除いた。このように、ボランティアの教員は、最も大切な自分たちの「教える」というスキルに集中できる。これが第1の理由だ。第2の理由は、仮に、ボランティアが他の優先事項や理由により職務を継続できない場合に対応するためだ。その場合、適任者を見つけるまで、その仕事を担当できる代役がいることになる。
当大学はすでにいくつかのマイルストーン(里程標)を通過している。現在、170を超える諸国から2,000人以上の学生を受け入れている。それにくわえ、今年、(学位授与ができっる)認可を受けた。この認可は、当大学のプログラムが高品質の教育を提供していることの証拠となる。その結果、学生が卒業後、いい職を見つけやすくなる。同時に、この認可により、学生は他の大学で上位の学位を取得することも可能となる。次に目指している里程標は、財務的なサステナビリティー(持続可能性)を確保することだ。UoPeopleの授業料は無料だが、学生が受験する(修了)試験に関しては100ドル/試験の受験料を支払うことになっている。学士の学位を取得するためには、10年間に40科目の試験に合格しなければならない。試験料を支払うことができない学生には、様々な奨学金を貸与している。なぜなら、当大学の使命には、いかなる学生も金銭的な理由によって学業が遅れないようにすることが含まれているからだ。同時に、大学は試験ごとに100ドルを受領する。その100ドルは学生から直接支払われるか、あるいは奨学金から支払われることになる。もし、2016年までに4,000名の学生の受け入れ目標を達成した場合、当大学は財務的な持続可能性を維持できるようになる。
UNESCO (国際連合教育科学文化機関)によれば、2025年までに、世界で9,800万人を超える個人が大学に進学できない。なぜなら、それに見合う定員に空きがないからだ。UoPeopleは、大学進学が難しい、こうした個人にどのように対応すべきかを示す、ひとつのモデルとなっている。当大学で可能なことは、他の大学でも可能だということを意味する。発展途上国は、教育需要に対応しないままで資源を使ってしまうような、大学(施設を含む)を設立するかわりに、オンライン大学を創設できる。UoPeopleの使命は、この9,800万人の需要に対応することだといってよい。仮に、他の大学や国々がオンライン大学のプロジェクトに参加しない場合、当大学はこの使命を達成するまで成長し続けるだろう。
4. 大学設立以降、カリキュラムはどのように発展してきましたか。コンピューター科学、MBA(経営学修士)、MPA(行政修士)、JD(法学博士)などの大学院、職務大学院課程を提供する計画は現在ありますか?
当大学では、健康科学の学士号の教育課程を創設しようとしている。たとえは、最近のエボラ出血熱の感染拡大を見ると、多くの発展途上国においてこの科目は緊急の必要があることを認識した。このため、健康科学は次の学科になるだろう。さらに修士課程を創設すべき分野について検討しており、近いうちに、修士課程を創設することになるだろう。
5. UoPeopleを創設するまえに、あなたは教育関係の営利企業で働いていました。現在のUoPeopleと比較して、営利と非営利の大きな相違は何だと思いますか。誰もが参加できる高等教育を提供するという使命は、営利型のビジネスモデルのほうが容易に達成できるのではないでしょうか。
UoPeopleは、営利企業と同じように運営されている。当大学は事業計画と事業目標をもち、月次ベースで業績を評価している。日常の業務という点では、他のビジネスとまったく同じ原理で運営されている。私は、営利企業の出身なので、いかなる組織であれ計画と目標が必要だと信じている。もちろん、個人も計画と目標が必要である。そうした計画と目標は綿密かつ定期的に評価される必要がある。
そうしたことを前提として、いくつかの相違点を述べよう。第1に、非営利ということで、そうでなければ絶対不可能のような多くの優秀な人材がUoPeopleを支援してくれている。学長委員会の長は、米ニューヨーク大学の学長である。英国オックスフォード大学の副学長が、米国の教育省長官とともに、同じ学長委員会に参加してくれている。同様に、副学長はコロンビア大学からの人材だ。営利企業だったとしたら、こうした素晴らしい人材から協力を得ることは困難だろう。さらに、UoPeopleは、3,000名のボランティアからも支援を受けている。
一方、仮に営利組織なら資金調達は容易になるだろう。私は非営利モデルを選択した。なぜなら、多くの人々が営利目的の教育に懐疑的だからだ。当大学のアプローチ法はかなり異なっており、(既存の大学制度に対して)破壊的なため、人々はより懐疑的になることを想定していた。人々は、当大学が真剣ではなく、あるいは、たぶん隠れた事業意図があると考える可能性もあった。非営利組織を組成することにより、そうした問題を回避し、正当性を確保できた。それにより人々は支援してくれている。アメリカの営利目的型の大学の現在の状況をみると、そうした組織は批判を受けている。こうした点を考慮すると、私が営利目的の起業家でないこと(当大学が営利を目指す組織でないこと)を喜んでいる。非営利組織であることにより、私は自分の考えが正しいことを主張でき、私の使命をより迅速にそして容易に実現できる立場になった。
6. UoPeopleを創設するうえで、どのようなチャレンジに直面しましたか。それをどのように克服しましたか。
2つのチャレンジに直面した。先ほど述べたとおり、一つ目が資金調達であり、もうひとつが(人々の)懐疑的な態度である。果たして、授業料が無料の大学は、質を保証し、認可を得ることができ、持続可能性を維持して運営できるのか。最近、認可を取得できたことは、こうした障害を克服することに役立つと考えている。
7. あなたの大学の遠隔学習モデルで、どのように学習の指導が行われるのかを紹介してください。MOOCs(Massive Online Open Courses = 大規模公開オンライン講座、ムークス)とCoursera(無料オンライン講義サイト、コーセラ)のようなオンライン教育との相違点は何ですか。こうした「競合相手」から、どのようなフィードバックや批評を受けていますか。
当大学は、MOOCsとはかなり性格が異なる。実際、私は、MOOCsの強い支持者である。第1に、実際、MOOCsは知識を世界中に広めるものであり、もちろん賞賛に値する貢献をしている。第2にスタンフォード大学、MIT、ハーバード大学を含む複数の著名大学がMOOCsを提供している。それはオンラインの教育サービスで、オンライン学習の有効性を保証している。私は、MOOCsを本当に評価し、敬意を表したいと思っている。MOOCsはオンライン教育の重要性を提示していると思う。しかし、仮にMOOCsを受講すると、1万人あるいは10万人、さらには20万人の他の受講生を含む「仮想教室」に出席することになる。一方、当大学では、クラスの人数は20名から30名程度である。当大学は「学生」対「学生」の学習メソッド(学生がお互いに教え合い、サポートし合う)を利用している。もちろん、コースは質問に答え、議論を監視する教師によって監督されている。さらに、学生にはその学生に合わせた形で教師から指導を受ける。こうした点が当大学の教授法の重要な要素となっている。
当大学のプログラムの受講生の性格も、MOOCsの典型的な受講生とは異なる。MOOCsやCourseraの受講者の80%は既に他の学位を持っている。40%は学部卒である。さらに、修士やそれより高い学位をもっている者も40%いる。そして残りの20%のほとんどが現役の大学生である。MOOCsの受講生は高い学歴をもっているにもかかわらず、登録したコースを実際に完了するものは参加者の5%未満である。
MOOCsは、「持たざる者」に教育機会を与えることに成功していないという批判を受けてきた。MOOCsはむしろ、高等教育を受ける機会を持っていた人々にチャンスを与え、その結果、「持つ者」と「持たざる者」との格差が広がった。さらに先ほど指摘したとおり、高学歴をもっているにもかかわらず、MOOCsの最終的な修了者は5%にも満たない。一方、当大学の学生は、自然災害の被災や地域紛争という極度の困難を経験している。そうした障害にもかかわらず、登録者の95%がコースを修了している。その意味で、UoPeopleは正しい方向に歩んでいると確信している。
くわえて言えば、UoPeopleは、大学であり、オンラインのコースではない。他の大学と同じように、学生は入学を申請し入学許可を受け、カリキュラムに従い、最終試験に合格しなければならない。当大学は学位を授与する。一方、MOOCsは、いうなれば個別の授業である。MOOCsから学位を受けることはできない。当大学の教育モデルは、賞賛を受けることはあるが、批判を受けたことはない。
8. UoPeopleのパートナーには、国連、ニューヨーク大学、マイクロソフト社、ヒューレット・パッカード社などが含まれています。現在、国際的に、このような企業などと取り組んでいる共同プロジェクトがあれば教えてください。
ヒューレット・パカード社は資金とコンピューターを寄付してくれた。また、同社は、インターンシップ・プログラムを開発し、女性向けの奨学金も提供してくれている。当大学で勉強している間、奨学金を受けた女性たちは、同社の社員をメンター(助言者)としてもつ。アフリカでは、マイクロソフト社は、1,000名の学生に奨学金を提供している。これらの学生は、在学中にマイクロソフト技術認定試験を無料で受けることができる。学生は、同社の社員をメンターにもち、インターンシップを完了する。さらに、学生はプログラムを完了後、マイクロソフト社に就職するチャンスも提供される。先ほど述べたとおり、学長委員会の長はニューヨーク大学の人間で、すべての学科長もニューヨーク大学の人間だ。さらに、ニューヨーク大学の多くの教授がボランティアでUoPeopleで教えている。当大学の最優秀学生の何人かは、ニューヨーク大学に編入でき、その場合、全額支給の奨学金を受け取ることができる。
9. 経営管理学科では何名の学生がすでに卒業していますか?コンピューター科学の学科の卒業生の情報を教えてください(平均年齢、年齢範囲、性別、出身地域)。彼らは、どのような組織で働いていますか。
学生の年齢は、18歳〜66歳で、平均年齢は29歳だ。30%が女性、70%が男性だ(この男女比は、将来、バランスがよくなるように変えたいと思っている)。出身地は世界中といってよい。(米国28%、中南米14%、アフリカ33%、アジア10%、残りは欧州、オセアニアなどだ)。職業経験も広範囲のものとなっている。
10. UoPeopleで勉強したい日本人の学生がいるとします。その場合、英語は大きな障害になります。英語が母国語でない学生のために、オンラインの英語の授業を提供する計画はありますか。授業で使う言語を他の言語にも拡大する予定はありますか。
UoPeopleに入学するためには、学生は、TOEFLか類似の試験に合格しなければならない。そうした試験に合格していない学生には、9週間の英語の授業を受講してもらい、本来の授業を受講するための英語試験に合格してもらう。しかし、当大学は英語の言語大学ではない。したがって、英語ができない学生は、入学の申請をする前にどこかで英語を学ばなければならない。将来、経営資源の余裕ができたら、他の言語による授業の指導も検討するだろう。
11. 非営利団体や営利企業を創業したいという志を持っている人にどのようなアドバイスをしますか?両組織の設立に求められるスキルは異なっていますか?
どちらのケースでも、あなたは、やろうとしていることに情熱をもつ必要がある。明確なビジョンが必要だ。そして、あなたのビジネスの中心は何かを理解しなければならない。さらに、中心的ビジネスに関係がない活動で横道にそれることを避けなければならない。そして、最も重要な点は「決してあきらめない」ことだ。組織が非営利だろうが営利だろうが、この仕事は、長いマラソンのようなものだ。何が起ろうが、決してあきらめないことが重要だ。とにかく続けることで、やがて結果が見えてくる。
12. 仕事をしていないときには、どのような趣味を楽しんでいますか。
過去5年間、私は、UoPeopleの運営に深く関与している。この仕事をとても楽しんでいる。実際、もし何をするのが一番楽しいかと問われれば、「自分が今している大学の仕事」と答えるだろう。仕事をしていないときは、新しい人たちと会ったり、読書を楽しんでいる。くわえて、ランニングをすることも好きだ。ランニングは、私の瞑想方法だ。そうした瞑想は、自分の考えを明確にしてくれ、集中するのを助けてくれる。
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